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頭部消失。五連チェーンガンを装備した左腕も切断されもはやなく、左肩のクレイモアも誘爆の可能性あり。 むき出しになったクレイモアをサブモニターで確認し、よくもさっきの衝撃で誘爆しなかったものだとアキトは息を吐いた。 機体のチェックを終えてまだ動くことを確認したアキトは、自分の現在地を確認する。 もっとも、確認とは言いつつもカメラから分かることは、自分は白い人口惑星の表面に飛ばされたということだけだが。 それ以外で目に入るのは、始めて見る大型機の残骸のみ。 アルトアイゼン・リーゼの調子を再度確認し、損傷が少なすぎることに違和感を覚えた。 アキトの世界では、人が搭乗するタイプのロボットは例外なくディストーション・フィールドが装備されていた。 だから、ボソン・ジャンプをしてもなんともない。しかし、アルトアイゼン・リーゼは違う。 特別空間を仕切るようなバリアを持っていないのに、その損傷がないのだ。 元々あのアルフィミィの場所に飛ばされたときにもこの機体はそこまでボソン・ジャンプでダメージを受けなかった。 元々頑丈で、壊れにくいのだろう。だが、それは機体の話だ。生身の自分まで平気な理由にはならない。 「もしかしたら……何かが宿っているのか」 姿や機体特性を見れば、これはあの蒼い孤狼が乗っていたマシンの発展系であることは理解できる。 そして内部のAIなどから、自分や、キョウスケが乗ったアルトアイゼンと同一のものであることも。 ということは、あの蒼い孤狼の化け物マシンが再びこれに戻ったということか。 不思議な力が宿ったとして、変な話じゃない。 もしも、自分が殺したキョウスケの機体が自分を何かしらの力で守っているとしたら、とんだ皮肉だ。 「あのネゴシエイターは……」 周囲を確認するが、凰牙の姿は見えない。そのことに、アキトは眉を寄せた。 アキトはボソン・ジャンプを敢行した。その結果、ここに飛ばされて来た。 アキトは、アルトアイゼン・リーゼの手を開く。そこには、蒼い宝石が握られている。 C.C(チューリップ・クリスタル)は、殴り合いの中どこかは知らないが凰牙の体から落ちたものを拾い上げ使わせてもらった。 ここまではいい。だが、そこから問題が一つある。 いるはずの、凰牙がいないのだ。空間転移の歪みに押しつぶされようと、残骸程度は転移しているはず。 A級ジャンパーである自分が結果として共に転移している。凰牙はあの様子ではまだC.Cを残していたと思う。 五体満足でここに現れても不思議ではない。一体どこに消えたのか。 「まさか……過去か、未来か?」 ボソン・ジャンプは厳密には空間移動ではない。時間移動なのだ。 空間を粒子化した状態で移動し、その後時間移動で移動にかかった時間だけ巻き戻す。 だが、もしこの時間の巻き戻しに何かあれば当然、今とは違う時間に飛んでしまう。 アキトは、赤い古鉄の右手に握り込んでいたC.Cをコクピットへ移す。あまり、量はない。 何度も使っていればすぐになくなってしまう量だろう。 かつて、家族がこれを――C.Cを遺してくれたおかげで、アキトは生き残ることができた。 アキトは、モニターを回し、白い星への突入口を探す。その時、とくに意識せず上方も確認していた。 別に上から何か来るとは思えないが、できる限り全方位確認しようとすることは不思議でもなんでもない。 そして、気付く。 「あれは――!?」 アキトが赤い古鉄に乗り込んだときは、木星に似た渦模様と赤銅色をしていた星は、まったく別の姿をしていた。 白く、輝く光を放ち、明滅し、光のためかその輪郭が大きくなったり小さくなったりしているように見える。 いや、違う。見える、のではない。実際に大きさが変化している。茫然とそれを見上げていたアキトは、さらに気付いた。 それが、少しずつ拡大していることに。あの輝く星のようなものは、この世界を飲み込もうとしている。 大収縮ののち、拡大に世界は転じたのだ。 アキトの、自分でない誰かの部分がささやいた。アキトは、それを振り払うため小さく頭を振る。 だが、世界の拡大そのものを防げるわけではない。もうすぐ、あれは全てを飲み込む。 そして、全てを終わらせる。 世界に対して、テンカワ・アキトという一人の個人はあまりに無力だった。 全てを終わらせる力への絶望が、アキトの足を止めた。 ■ C.C(チューリップ・クリスタル)は、時間移動への切符。時の旅人への通行証。 だが、もしも時間が正しくない世界でそれを使えばどうなるだろうか。 例えば――時間軸をゆがめて作った世界のそばでそれを使えば。平行世界、別の世界の時間軸を含むそんな場所で使えば。 もしかしたら、どんな世界でもない、どんな時間でもない、そんな場所にたどりつくのかもしれない。 ■ ロジャー・スミスが目を覚まして最初に見たものは、金色の穂先と青い空だった。 自分が地面に大の字に倒れていると気付いたのは、意識が覚醒して一瞬後のこと。 身を起こそうと地面に手をつけば、そこにあるのは倒れた穂先。ロジャーは麦畑のど真ん中に倒れていたのだ。 「ここは……」 身を起こしたロジャーは、襟元を正しながら、来ている黒いスーツについたモミや草を落とす。 そこで、ふと違和感を覚える。少し考えて、ロジャーも違和感の原因を見つけた。 先程まであった、体の痛みが消えているのだ。 肋骨が折れ、体をひねるたびに起こっていた痛みが、体を起こすときになかった。 いや、それだけではない。 リリーナ嬢を抱きかかえた際や、ガウルンに奇襲を受け地面を転がった時についた、スーツの土や血といった汚れがまるきり消えてしまっているのだ。 未だ理解しがたい現状に混乱しながらも、ゆっくりと首を左右に動かし、周囲を眺めてみる。 そこにあったのは、農夫と、トラクターと――空の向こうに広がる、黒い鉄枠。 他でもない、見慣れたパラダイムシティを覆う半円状のドームの天蓋がそこにあった。 パラダイムシティであるとするならば、ロジャーにも自分がいる場所に心当たりがある。 大規模農作用ドーム、『アイルズベリー』。何度かロジャーも依頼がらみで足を運んだことがあるので覚えている。 麦畑をかき分け、土でできた道路にロジャーは立ち、自分の体を眺めた。 あの殺し合いに招かれる前の、依然と変わらぬ世界で、いつもと変わらぬ姿でここにいる自分。 先程までいたはずの、あの狂った世界は何だったのか。 自分が見ていたのは冗談のようにタチの悪い悪夢でしかなかったということか。 いやそれもあり得ない。確かに、今のロジャーにあの殺し合いの世界にいたという痕跡はない。 しかし、ロジャーの記憶(メモリー)は覚えている。 あの狂った世界の、狂った法則に立ち向かう人間たちのことを。 だがそれが正しいとするならば、ロジャー・スミスはまだあの狂った世界にいるはずなのだ。 ここにいるロジャー・スミスは何なのか。 ほんのわずか前と認識している事柄と、繋がらない現状の記憶(メモリー)に悩む男は誰なのか。 ロジャーはひとまず屋敷に連絡するため、腕をまくった。 そこには、さまざまな機能が付いた時計がはめられており、機能の一つとして屋敷にいるノーマンとの連絡機能もついている。 慣れたしぐさで口元に手首を運ぶ。 「ノーマン、聞こえているか?」 しかし、返答はない。時計からは、小さくジジジ、と不協和音が流れるのみ。 ロジャーは腕時計に視線を落とし、絶句した。腕時計のカバーガラスが壊れ、時計が止まっているのだ。 壊れた時計。 それ自体はおかしくない。ものである以上壊れることはある。問題は、いつ壊れたかということだ。 今ここにいるロジャー・スミスの記憶(メモリー)を参考にする限り、腕時計が壊れた覚えはない。 ユーゼスとの会談に向かうに当たって、ロジャーはこの腕時計で時間を確認している。 それ以後、時計が破損するほどの衝撃が手首にかかったことはない。 「どうなっているんだ……」 壊れていないはずの時計は壊れ、汚れているはずの服は汚れておらず、傷ついたはずの体にはその痕跡がない。 本当に白昼夢だったというのか。もしくは、自分の中の失われた記憶(メモリー)のフラッシュバック。 あれほど、鮮明なものが、40年以上前に過ぎ去ったものだと? 暖かな日差しとは裏腹に、歪む顔を手で押さえるロジャーの背筋には冷たいものが流れ続けていた。 「おや、君は……どうしてここにいるのかね?」 突然自分に掛けられた声に、はっとなりロジャーは顔を上げる。 いつの間にか、ロジャーのすぐ前には一台のトラクターが止まっていた。 先程はなかったはずのそれは、そこにあって当然である、在らねばならないと主張するほどの存在感を何故か持っていた。 ロジャーに声をかけた、トラクターに乗る人物もまた、ロジャーが知る人物。 農夫姿で、樹齢何百とたった樹のようなしわを顔に刻んでいる、 どこを見ているか分からない、いつも虚空を見ているような眼でロジャーを見ている人物の名前は、 「あなたは……ゴードン・ローズウォーター……」 パラダイムシティをかつて納めていた人物であり、数少ない40年以上前の記憶(メモリー)を持つといわれる老人だった。 確かに、彼は隠居しアイルズベリーでトマトの栽培をしながら過ごしている。 ここがアイルズベリーとすれば、いてもまったくおかしくない人物だ。 しかし、ロジャー・スミスが保有している記憶(メモリー)が正しいという前提があってのことにすぎない。 もしかしたら、彼は全くロジャーの知らない何者かなのかもしれない。 「乗りなさい」 ゴードン・ローズウォーターがトラクターへ乗るようにロジャーに促した。 どこか夢遊病者のような足取りで、ロジャーはゴードン・ローズウォーターの隣に座る。 トラクターは、再びどこかに向けて動き出した。ゴトゴトと整備されていないでこぼこ道をトラクターが走る。 ロジャーは、未だ自分がどこに立っているのか理解できていなかった。そして、自分が今からどこに向かうのかすらも。 「どうしたのかね?」 前を見つめたまま、ロジャーを見ずにゴードン・ローズウォーターはそう呟いた。 ロジャーは、自分とゴードン・ローズウォーターしかここにはいないにも関わらず、 その呟きが自分に向けてのものであることを、咄嗟に理解できなかった。 ■ 星に広がる毛細血管のような通路の中、ブレンが飛ぶ。下からの轟音が少しずつ遠くなる。 地獄からの生還、そんな言葉がふと頭をよぎるが、まだ終わってないのだ。 上に登って、ロジャー達と合流し、再度突入する。 例え、どれだけ勝ち目が薄くても、それ以外に最終的に生き残るすべはない。 力が足りない。アイビスに、その事実が重くのしかかっていた。 ブレンを悪い子だとは思わない。しかし、非力さだけはどうしようもなかった。 凰牙。サイバスター。F91。キングジェイダー。ユーゼスのメディウス・ロクス。 そういった相手に比べて、あまりにも弱い。撹乱して、手傷を少しつけるのがやっと。 その結果が、これだ。誰の窮地も満足に救えない。倒れていく仲間を見ている側で、ただ生きている。 もし、自分ではなくこの場にもっと大きな力を持つ誰かがいたら、カミーユを助けられたのではないか。 アイビスはそんなネガティブになりそうな思考を頭から振って追い出そうとする。 しかし、なかなかその考えは頭から消えてくれなかった。 そんなとき、鼓膜を叩く大きなスラスターの音。 まだまだ続く黒い穴の向こう、確かに何がこちらに接近している。 「ロジャー!?」 そうであってほしい。いや、そうに違いない。ブレンは上昇を続けている。 だが、アイビスが何か指示するよりも早く、急にブレンの動きが変わり、進路を横に向けた。 その次の瞬間には、上空の機体は急加速し、ブレンの横をすり抜けていた。 明らかにそのままのコースだったら衝突している。 「いったい、誰!?」 アイビスが、急停止し今度は下からこちらを見上げている機体をモニターに写す。 そこにいたのは、ユーゼスとの戦いで途中ユーゼス側の増援として現れた蒼い騎士だった。 しかも剣を抜き、戦闘態勢を取っている。 「ちょっと待って! もうユーゼスもいないんだから話を聞いて! ユーゼスと一緒にいたってことは脱出しようと思ってるんだよね!? 少しでも力がいるんだ、協力してみんなで……」 「他人なんていらない。……俺は、俺一人で全員殺す」 青い騎士が答えた。声が意外と若い。カミーユや自分とそこまで年は変わらないように思える。 だがその声色は、同い年とは思えないほどの冷たさと、暗さを秘めていた。そして、その内容も。 「……ッ! そんな! あのノイ・レジセイアを倒せば終わりなのに、なんでまだ殺しあわなきゃいけないのさ!? もう殺しあう必要なんてない! ロジャーや、カミーユ、キラやシャギア、それに……あのテンカワって人も! みんなで協力すれば、ノイ・レジセイアだって倒せる!」 だが、そんなアイビスの声を無視し、青い騎士は剣を振り上げた。 「ロジャー? テンカワ、キラ、シャギア? ……みんな死んだよ。次は、お前だ。その次は、下の連中。全員、殺すんだ」 虚無を湛えて、蒼い騎士は言う。 蒼い騎士は、ゆっくりとその手に握る剣――ロジャーがガウルンから奪った大剣――をこちらに掲げる。 「そんな……ロジャーが、そんなはずがない!」 アイビスの叫びも、蒼い騎士が動きを止めることはできない。 蒼い騎士から言葉はなく、あるのはこちらを殺そうとする意志のみだった。 アイビスのブレンが震えている。ノイ・レジセイアやキョウスケと出会ったときに似た挙動に、アイビスも驚きを隠せない。 ユーゼスとの戦いのときは、そんなことはなかったはずだ。この短時間に、いったいどんな変化があったのか想像もつかなかった。 だが、分かることが一つだけある。それは、こんなところで死ぬわけにはいかないということだ。 ブレンがソードエクステンションを構える。 この場でどうにかしたからどうなる、という言葉をアイビスは飲み込んだ。どんなことも諦めない。 ロジャーが死んだという言葉も、戻って確かめるまでは信じないとアイビスは決める。 どれだけ非力だろうが、ここを突破して見せる。 幸い、位置関係は悪くない。上昇したいアイビスが、蒼い騎士より高い位置にいる。 このまま、距離を取っていけば、逃げることも可能かもしれない。 じりじりと上昇を続けるブレン。 対して、蒼い騎士の取る行動はアイビスから見ればいささかおかしなものだった。 マントの影から取り出した鞘に剣を納めると、その場で構えたのだ。 (一気に踏み込んでくる……?) それにしても、いささか距離が遠い。この距離なら、一気に加速して切り抜けるつもりとしても回避できる。 アイビスは、相手の背中と足に意識を集中させた。ユーゼスとの戦いで、相手のスラスターの位置は把握している。 どんな加速であろうとも、まずスラスターに着火される。何の推力もなしに急加速はできないのだ。 そこに動きが見えたと同時に、上方に向かってバイタルジャンプ。そして、相手が体勢を立て直すより早く全力でここから離れる。 アイビスは、対処の方法を頭の中で組み立てる。 上昇するブレン。動かない青い騎士。 蒼い騎士には、動く気配がない。確かにやや前傾の姿勢ではあるが、一気に加速しようという姿勢ではない。 このままいけるのであればアイビスとしてもありがたい。 距離が開いていき、完全に相手の射程から逃れたとアイビスは視線を切らずにそう考えた。 次の瞬間、ブレンの右手が飛んだ。 「え……?」 アイビスは、一瞬たりとも相手から目を切っていない。相手は動いていない。スラスターを使ってない。 なのに、斬撃は確かにブレンへ届いていた。アイビスは、映し出された外の光景に、目をしばたたかせる。 一歩も動かないまま鞘から引き抜かれた剣が、細く長くブレンに伸びていた。 アイビスは、姿を変える剣という程度の認識しかなかった。たしかに斬艦刀は姿を変える。 しかし、それは液体金属による形状の変化によるもの。プログラミング次第でその姿は千差万別に変化する。 今の統夜の超射程による居合い抜きは、居合い抜きによる加速をつけつつ、抜ききった刀身を変化させることによって生み出された技。 アイビスは相手が居合い抜きをあびせるための移動を警戒していたが、それはピントがずれていたのだ。 向こうは、動く必要すらなかった。 予想もしなかった痛みに、ブレンの動きが僅かに乱れる。 落ち着かせるため、アイビスがコクピットの中へ少し視線を上げた。 ブレンが、壁に叩きつけられた。 意識を乱した一瞬をつき、蒼い騎士は加速して手をブレンに押し付けたのだ、と揺れる頭で理解する。 金属壁に、ブレンがめり込む。ブレンと相手の体格差はざっと6倍。体の中心に手をあてられると、身動きを取ることができない。 うめくアイビスとブレンに、蒼い騎士は改めて剣をかざす。 バイタルジャンプをしようにも、まだブレンがそうできる状態まで回復していない。 これでは、どこに吹き飛ばされるか分からない状況だ。それに、これだけ密着されると、相手ごと転移してしまう。 八方塞がり、打つ手なし。そんな言葉をそのまま表したような状況だった。 蒼い騎士が何も言わずに剣を絞る。 「ちょっと待って……! なんでこんなこと! そんなに殺し合いがしたいの!? あのガウルンとか、ギンガナムみたいに!」 アイビスの言葉に、初めて蒼い騎士が動いた。 蒼い騎士がまるで人間のように小さく震え、剣が動きを止める。 「俺が……誰みたいだって?」 先程と同じ冷たい声。しかし、僅かに上ずっている。 抑えようとして、抑えきれない感情が漏れ出している。そんな印象をアイビスは感じた。 アイビスは、一瞬迷った。同じことを言えば、逆鱗に触れて今度こそなます切りにされるかもしない。 「俺が、誰みたいだって!?」 もう一度蒼い騎士が繰り返した。 押さえつける蒼い騎士の手に力が増し、ブレンが、さらにうめき声をあげた。 やはり、一人では何もできない。そんな悔しさが胸を突く。 こうやって押さえつけられ、満足にものをいうことすら悩み、ままならない。 こんな、理不尽な理屈を前に。こんな、理不尽な相手を前に。あまりにも無力だ。 アイビスは、聖人君子ではない。このままいけば終わりなのだ。死ぬのは怖い。 けれど、やけくそというわけではないが、このままただ黙って受けてやるのも癪だという思いが膨れ上がる。 こんな言われっぱなしで、黙っているのも違う気がする。アイビスは、息を吸うと、思い切り叫ぶように言った。 「ガウルンやギンガナムみたいって言ったんだよ! そんなに戦ったり、人が殺したりするのが好きなら、一人でそんな世界に行って殺しあえばいい! みんなが力を合わせるのがそんなに嫌い!?」 今度こそ、蒼い騎士が動きを止める。 アイビスはその間に手を抜けだそうと少しでも動くようにブレンに指示を出す。 僅かに緩んだ指の隙間から、腕を差し入れると、そのまま体を強引に引っ張りだそうとした。 しかし、それよりも早くブレンの拘束はなくなっていた。 蒼い騎士は手を引き、刀を鞘に納めている。 「……行けよ」 ぶっきらぼうだが、蒼い騎士は上を親指で指した。もしかしたら、自分の行ったことが通じたのか。 信じられない出来事にぽかんとするアイビスに背を向け、蒼い騎士は降下を始めた。 「俺は、好きで殺してるわけじゃない。殺さないといけないから殺してるんだ。……ガウルンとは、違うんだ」 「じゃ、じゃあもしかして協力して――」 ブレンのすぐ横に、投具が突き刺さる。 ブレンを見ることなく背を向けたまま蒼い騎士が投げ放ったものだ。 「勘違いするな。最後はみんな結局殺すさ。けど、今殺す必要もない。言ったよな。全員死んだって」 その言葉に、アイビスは顔がこわばるのを感じた。 それでも、アイビスははっきりと蒼い騎士に言う。 「そんなの信じないよ。自分の目で見るまで、あたしは絶対にあきらめない」 「みんな死んだんだ。行ったところで何もない。何も起こらない。受け入れたくないことに足掻くことまで否定はしないさ。 けどな……それでもどうしようもないことだってあるんだ。 ……諦めろよ、奇跡は起こらないから奇跡っていうんだ」 蒼い騎士から、ため息のような音が漏れた。 けれど、アイビスの答えは変わらない。 「どんな理不尽なことでも、あたしは諦めない。奇跡なんて起こらなくてもいい。それでも、やってみたい」 自分で言っておきながら、その言葉を心から信じ切れていないのをアイビスは理解していた。 どちらかと言えばそうであってほしいという願望を口に出すことによって、信じる自分を支えるようとする部分が大きい。 「そうかよ」 蒼い騎士はアイビスの言葉にそっけない返事を返すと星の中心へ下りていく。 アイビスはただ、その姿を見ていることしかできなかった。 蒼い騎士が姿を消すのを確認し、アイビスは再び飛び始める。カミーユから教えられた地点へ、まっすぐに。 体がずっしりと重い。進めと指示を出す、自分の思考が濁り、淀んでいる。 この先に、進んでいいのか。 進まなければ何にもならないとは分かっていながらも、考える自分を止められなかった。 光が見えてくる。 人工的に作られた作り物の箱庭の放つ、眩い光はもう目の前だ。 細く狭い通路を抜け、広い空間にブレンが飛び出す。そこは、間違いなくカミーユの指示した地点。 だが、そこにあるのは、戦いによってえぐれ、荒らされた地面と、よく見た機動の腕が二つ。 血だまりのように液体がまき散らされた地面に沈む一本の腕を、壊れ物を扱うようにそっと拾い上げる。 しかし、アイビスの震える意思が伝わったのか、ブレンの腕からそれはこぼれ落ちた。 アイビスは、知っている。これが、間違いなく騎士凰牙のものであることを。 そして、少し離れたところに転がるほうの腕は、キングジェイダーが搭載していた、アルトアイゼン・リーゼの腕であることを。 「ロジャー……?」 もう右から声は聞こえない。 「キラ……?」 もう左から声は聞こえない。 「シャギア……?」 もうどこからも声は聞こえない。 アイビスの声は、どこにも届かない。 ――希望はすでに砕け散っていた。 ■ そこは、星の中心から一層だけ上のエリア。 どこまでも広大でがらんどうな空間に、二機の機体が動き回る。 「……ぐ、ぅう……」 カミーユは荒い息をどうにか抑えようとするが、動悸は全く治まらない。 どうにか地面に設置された緑色のエネルギープールに陣取ることによって、サイバスターのエネルギーは回復している。 しかし、それはあくまで機体の燃料を補充するだけであって、カミーユ自身の魂の燃料を補充するものではない。 迷路のように設置された隔壁の影から、ブーメランのように弧を書く軌跡でデュミナスの爪が姿を現した。 それを、サイバスターはディスカッターで切り払う。 「そこですか?」 殺気を感じ、慌ててエネルギープールからサイバスターを飛行させる。 一拍置いて、エネルギープールが瞬時に沸騰し、緑色の水竜巻を空高くまで起こした。 空から緑の雨が降り注ぐ中、隔壁の向こうからメディウス・ロクスが姿を現す。 「逃げようとしても無駄です。今のあなたが私を振り切ることはできない」 「……いけっ!」 カミーユはメディウス・ロクスの言葉を無視し、カロリックミサイルを撃ち放った。 二発のミサイルは、正確にメディウス・ロクスに飛来し、確かに接触、爆発する。 いや、接触したのはメディウス・ロクスの発生されたスフィア・バリアだった。 カロリックミサイルは、バリアの表面で爆発するが、爆風はすべてバリアでそらされていた。 「何度でも言います。無駄です。機体をこちらに譲渡してください」 カミーユは拳を震わせた。 さきほどから、メディウス・ロクスはあまり積極的に攻撃を仕掛けてはこない。 つかず離れず、時々攻撃を仕掛けてくるだけだ。 理由は単純だ。奴の狙いはサイバスターにあるラプラス・コンピュータ。 サイバスターの撃破ではなく鹵獲を目的としている。サイバスターを破壊しては入手できないのだ。 だが、もしも相手が鹵獲という手段を放棄していたのなら、サイバスターが今どうなっていたかは想像に難くない。 「もしあなたが機体を譲渡するというのなら、あなたの命は保証します。ですから……」 「断るっ!」 サイバスターが再び逃走する。しかし、メディウス・ロクスも正確に距離を取りつつ追いすがる。 「仕方ありません。私が完全になるためには、サイバスターが必要です」 メディウス・ロクスの胸の部分から、一条の光線が放たれた。 サイバスターとはまるで見当違いの場所へ。サイバスターを光線は追い抜き、サイバスターの進路上の天上へ着弾した。 行方を阻むように崩れた大量の瓦礫が落下してくる。カミーユは、汗でぬめる操縦球を握り、意識を送る。 紙一重で瓦礫の隙間を抜けるサイバスター。 それに対してメディウス・ロクスはスフィア・バリアにより瓦礫を弾き飛ばしながらまっすぐに向かってくる。 たちまちのうちに両者の距離は詰まり、振り上げたメディウス・ロクスの爪が、サイバスターを狙う。 カミーユはやはりディスカッターでそれを受け止めるが、それにより動きを止めてしまった。 サイバスターを数mはあろうかという飛礫が叩く。 「ぐ、が、ああ!?」 機体の表面を致命傷にならない程度に質量物で叩く。 なるほど、相手の機動力を奪いつつ、内部に大きなダメージを与えないために適した方法だ。 Ζガンダムの設計なども行ったカミーユだからそう理解できる。 だからこそ、次に続く思考も。結局のところ、相手はこちらを敵とすら認識していない。 捕まえるところまでは確実。負けることなど、傲慢や思い上がりではなく、冷静な判断で思考に入れていない。 地面にたたき落とされたサイバスターのすぐそばに、メディウス・ロクスが音もなく着地した。 いまや、大いなる風の魔装機神も、羽をもがれ地面を這うだけだ。 メディウス・ロクスがサイバスターを踏みつけた。コクピットを中心に、銀色の装甲に亀裂が入っていく。 「何度も言ったはずです。機体を明け渡せば、命は奪わないと。何故あなたは私を拒絶するのですか?」 「お前らに……やれるものなんて……何一つないっ!」 踏まれた状態で、強引にサイバスターが体を起こす。 足が逆に装甲に食い込み、亀裂だけにとどまらず装甲が脱落した。だが、動きは止まらない。 そこから起き上がるとはメディウス・ロクスも思っていなかったのだろう、バランスを崩したメディウス・ロクスは派手に転倒する。 そこに、ディスカッターで本来コクピットがある場所を正確に貫いた。 「無駄です。今の私に、あのお方はいない。私は私の意思で活動している。あのお方を殺すことはできない」 メディウス・ロクスがサイバスターの腕をつかみ、力を込める。 サイバスターが手をディスカッターから離すと、強引にメディウス・ロクスはサイバスターを地面に叩きつけた。 銀色の破片が、暗い基地に設置されたわずかな照明の光を反射し、きらきらと瞬いた。 「あのお方……ユーゼスなのか!?」 「その通りです。偉大な私の創造主。ただの機動兵器でしかなかった私を導いてくださったお方。 あのお方は、私に完全であれと望んだ。そして、私は不完全であるとも。故に、私は完全にならなければいけない」 突然、メディウス・ロクスが饒舌になった。 最低限の言葉しか発していないメディウス・ロクス――いやAI1が、ユーゼスに関してだけは違ったのだ。 「それで……そのために戻ってきたのかよ! 人の命を踏みつけにしてそうなっておいて!」 「あのお方は言った。世界は選ばれたもののためにあると。あのお方は選ばれたものだった。 あのお方の願いは成就されなくてはならない。命に価値があるとするなら、上位者への献上物としてのみ存在する」 「そんな勝手な理屈を!」 全身から装甲を脱落させながら、サイバスターカロリックミサイルを放つが、 やはりいとも簡単にメディウス・ロクスは受け止めた。しかし、カミーユが攻撃を止めることはない。 「あなたのサイバスターを手に入れろとあのお方は言っていた。あのお方の願い、聞き入れてもらえないのですか? 私ならあなたよりもラプラス・コンピュータの力を活用できる。その力は、より正しく使えるもののためにあります」 「言ったはずだ! お前らにやれるものなんて何一つないっ! このマシンは、そんなコンピュータのおまけじゃないんだよ!」 カミーユは、まだラプラス・コンピュータの全貌など知らない。 もしかしたら、それさえ発動させればこの状況をひっくりかえせるかもしれない。 けれど、使う方法がわからない。それでも、この機体ならどうにかできると信じてくれたのだ。 この機体を使い、自分ならあのノイ・レジセイアを撃ち貫けると信じてくれたのだ。 「うあああああああああぁぁぁぁぁあああッッ!!」 目にもとまらぬ速度で腰部にジョイントされた武器をサイバスターが引き抜いた。 ブンドルが託したサイバスターが、中尉が託したオクスタンライフルを構える。 長い砲身が、ほぼ接触状態でメディウス・ロクスに向けられる。 撃ち貫く、というカミーユの意思を受け、サイバスターが引き金を引く。 不意を突かれる形となったメディウス・ロクス。さしものスフィア・バリアもゼロ距離では意味を持たない。 「胸部に損傷……指数34。再生の範囲内です」 それだけで、これほどの力を持つ特機を沈めるには至らない。確かにダメージは入ったが、撃墜までは程遠い。 撃った反動で、サイバスターの手からオクスタンライフルが飛び出し、後方に投げ出された。 カミーユは振り返らない。そのまま、サイバスターで直接メディウス・ロクスにぶつかっていく。 これだけの質量差がある状態で体当たりという攻撃を選択するのは、一見下策に見えるかもしれない。 メディウス・ロクスは反射的に爪を振り上げようとしたが、その動作を中断した。 何故動きを止めたのかカミーユは分かっている。あのまま払うように攻撃をしてしまえば、今のサイバスターでは砕け散ってしまうかもしれない。 メディウス・ロクスはサイバスターを撃破できない。本体であるAI1が、至上の存在と崇めるユーゼスがかけた呪いだ。 カミーユはその間にメディウス・ロクスの胸に飛び込むと、刺さっていたディスカッターを再び掴んだ。 サイバスターの全重量を一気に剣にかける。かける、と言っても何をしているわけではない。 くずおれるサイバスターに剣を握らせているだけだ。だが、それによってディスカッターは縦にメディウス・ロクスの装甲を切り裂いた。 「指数79に増大。ですが戦闘続行は可能ですね」 先程のようにサイバスターを上から抑え込もうと放たれるメディウス・ロクスの剛腕。しかしカミーユは着地と同時に後方に飛んでいる。 大空を飛ぶはずのサイバスターが、地面で跳ねるしかない。それでもカミーユは止まるわけにはいかない。 跳びすさった場所にあるのは、後ろに飛ばされたオクスタンライフル。地面を転がりながらもしゃにむにそれを掴むと、再び敵へと照準を合わせた。 選択するのは、Bモード。体全体でライフルを抑え、撃鉄を引く。一発。二発。三発と繰り出される実体弾。 その反動が、サイバスターを揺らす。 撃ち出された砲弾は、メディウス・ロクスが発生させたスフィア・バリアにあっさりと阻まれる。 その時、オクスタンライフルが地に落ちた。 サイバスターのマニピュレータが限界を迎え、片手が物を掴むという機能をついに失う。だらりと腕が垂れ下がった。 サイバスターが、弱弱しくスラスターを吹かし、5mばかり距離を取った。 メディウス・ロクスはバリア表面で起こった爆煙を裂き、サイバスターに肉迫する。 再び振り落される大振りな爪をサイバスターは回避する。しかし、かわしたはずの爪が、サイバスターを叩いた。 それが、腕を振り落すと同時に放たれた肘の爪であることを、カミーユは受けてから理解した。 「今のあなたがこれほど戦えるとは予想外でした。それを予測できない私はやはり不完全であるということでしょう」 かけられる言葉。しかし、カミーユは沈黙という答えを返す。 「ラプラス・コンピュータは私に組み込まれ、あのお方が使ってこそ意味があります。 あなたがサイバスターを操縦する必要性はないのです。使うのは、あのお方と私でなければならない」 相変わらず、ユーゼスを称賛する時だけ饒舌になるメディウス・ロクス。 こちらに機体を渡すように勧告しているのか、ユーゼスの偉大さを他者に知らしめようとしているのかまるで分からない。 煩わしいメディウス・ロクスの声を無視し、カミーユは歯を食いしばり、無言で集中する。 「気絶しましたか? それなら都合がいい。あなたの命を今からもらいます。 全ての命も、全ての力も、全ての知識も、全能の調停者たるあのお方のためにあるのですから」 そう言うと、メディウス・ロクスはサイバスターに歩み寄る。 正確にこちらのコクピットだけを潰すつもりだろうとカミーユは当たりをつけた。 動き回る相手ならともかく、停止したこちらをそうやってしとめるのは難しくない。 メディウス・ロクスの爪が、ゆっくりと振り上げられた。一部のずれもないように、正確に叩きつぶすための速度だ。 その爪が、サイバスターに振り落され――― ――――――ない。 メディウス・ロクスの背面スラスターが巨大な火を噴いた。それによって盛大にメディウス・ロクスは前方へ吹き飛ぶ。 押しつぶされぬようカミーユは、ちぎれそうな意識をかき集め、サイバスターを迫る影から抜け出させる。 心の中、小さくカミーユはアムロに謝罪した。こんな謝罪は意味がないと分かっていても、心からカミーユはそうしたいと思った。 「う、あああアああ………いっタい、なニガ……」 メディウス・ロクスの電子音声が乱れる。それほど内部に対しても深刻なダメージということだろう。 何が起こったのかも把握してないことは見て取れる。 メディウス・ロクスは、爆風のため見落としていたのだ。脱落したサイバスターの銀色の装甲の中に、白いものが混じっていたことを。 それは――カミーユが創造した三機のハイ・ファミリア、その残った一体。 今のカミーユの精神状態では、自在にハイ・ファミリアを操ることは不可能だ。 ただ漫然と射出して使おうものなら、動きの鈍ったそれはすぐに落とされるだろう。 だから、カミーユは待ったのだ。ハイ・ファミリアをメディウス・ロクスに気付かれず、致命的な一撃を与えるチャンスを。 ハイ・ファミリアの混じった残骸を踏み越え、攻撃に気を回した隙をつき、カミーユは自身を投影した分身をメディウス・ロクスのスラスターに飛び込ませた。 そして、最奥で力を放ったのである。60mもの巨体が故に、スラスターの噴出孔も大きい。それによって生まれた死角。 直結した己のエネルギーに火がつけば、どれだけの機体であろうとも致命傷は避けられない。 サイバスターにメディウス・ロクスを破壊する力はない。ならば、メディウス・ロクス自体の力を使えばいいのだ。 A・R(アムロ・レイ)の名を冠したハイ・ファミリアは、最期に敵を打ち倒した。 自分の意識を分化させたハイ・ファミリアが撃墜されたことによる精神的な痛みを必死に抑え、カミーユはサイバスターを操作する。 動くほうの手でオクスタンライフルを拾い、サイバスターは振り上げた。 「何ゼ……ラプラス・コンぴュータハ……ソの力は……あのお方のタメにあルのに……ナぜ、あなたは……」 メディウス・ロクスが意識を持って稼働しているなら、撃墜されることはすなわち死を意味している。 だと言うのに、いまだメディウス・ロクスが口にするのはユーゼスのことだった。 サイバスターの力は、ユーゼスこそふさわしい。カミーユには、要らないものだと信じて疑わぬ声。 その言葉が、カミーユには我慢できなかった。沈黙の反動からか、カミーユの口からは叫びがあふれた。 「ふざけるなッッ!! そんなにこのマシンが、サイバスターが大切か!? 人の命を平気で踏みにじってまで、そんなに欲しいのかよ!? ユーゼスが言った理想? 完全になる!? いつもいつも脇から見ているだけで、人を弄べる奴がそう言うんだ! 何も分かっちゃいない癖に知ったようなことばかり! 俺たちは考えなしの案山子なんかじゃない!」 処理しきれない感情が、白濁とした頭の中を駆け巡り、どうしていいのか分からなくなってくる。 「お前だって同じだ! ユーゼスの、ユーゼスのってユーゼスのことを鵜呑みにして、他人の代弁者のつもりか!? 人のこと一つ考えられない奴が、人の命を平気で摘みとれる奴に何がわかるって言うんだよ!?」 「ワタしは……あのお方の……」 「黙れよ! 目の前の現実一つ見えてない奴が! 過去に縛り付けられて、それだけしか考えられなくなった癖に!」 カミーユは、メディウス・ロクスの言葉を遮る。一息に言い終えて息が切れる。先程から荒い息が、さらにひどくなる サイバスターはまっすぐにオクスタンライフの銃身を、メディウス・ロクスの本来核がおさめられているはずの空洞に差し込んだ。 オクスタンライフルにもついに限界が訪れる。何度となく刺突にも使われたことによって、耐久力はすでになくなっていた。 空洞に飲み込まれるように、オクスタンライフルが押し込まれて消えてく。 オクスタンライフルの全てが空洞に飲み込まれたと同時――エネルギーシリンダーに火がつき、それが実体弾を巻き込み炸裂した。 体の中から火を噴き出し、紅蓮にメディウス・ロクスが包まれる。手が、足が、胴がばらばらに裂け、四散する。 「ゲンじつを見えてないノは……アナたのほう……もはや、あなたに、タタカうチカラは……」 ――グシャリ。 最期まで人の気を逆なでする言葉を吐くメディウス・ロクスの頭をサイバスターは踏みつぶした。 「分かってるさ……けど、許せるかよ……こんなことを平気で出来るような……」 この身体に代えてでも、ノイ・レジセイアだけは。 カミーユは、絶対に許せない。許せるわけがない。 クワトロ大尉を、アムロ大尉を、多くの人々を理不尽な殺し合いで奪ったことが。 皆、帰る場所があった。帰りを待ちわびている人がいた。まだしなきゃならないことがあった。―-死んでいい人じゃなかった。 それを実験なんてものの使い捨ての道具のように、安全な場所から一方的に殺した。 挙句、世界を作ると。人の心も大事にできないような存在が作る世界のために、殺された。 歯を食いしばり、唇も噛む。口から流れ出る血が、どうにかカミーユの意識を繋ぎとめる。 一瞬でも気を抜けば、どこまでも落ちていける。カミーユはその事実を感じていた。でも、それをするのは、まだ先だ。 今は、足をとめちゃいけない。アイビスが登って行った空をカミーユは一瞬見上げた。 そこには、無機質な天井があるだけだ。その先をカミーユは見通し、サイバスターを歩かせる。 結局、ノイ・レジセイアと戦えるのは自分だけだ。キラも、シャギアも逝ったことを、カミーユは自分の力で漠然と理解していた。 ロジャーの気配も消えたことも。残りは、ノイ・レジセイア。デュミナス。自分。そして、よくわからない大きな気配と、アイビス。 星の中に感じる力はそれだけだ。 サイバスターが、体を引きずり進む。もはや、体のどこにも無傷な場所はない。 いつ機能停止してもおかしくない状態だった。 ――もし、この世界に奇跡を起こせる存在がいるならば。 ――希望の力から生み出される電子の聖獣がいるならば。 カミーユは、十分にそれに適合するだけの条件を持っていたと言えるだろう。しかし、そんな奇跡はあり得ないのだ。 この実験を起こすに際し、ノイ・レジセイアが破壊したものが二つある。 一つ、希望より無限の力を引き出す不死鳥を象った七体目の電子の聖獣。 二つ、舞台の上を動かし、納めるための機械仕掛けの神〈メガデウス〉。 この二つは、もはやこの世界のどこにも存在しない。カミーユたちを助け、導くものはもうどこにもない。 舞台に全ての人はあげられ、全ての札は開かれた。勝つも負けるも、ここにあるものだけが決することができる。 →ネクスト・バトルロワイアル(3)
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関連ページ:銀河烈風バクシンガー <鑑賞備忘録> 2010年5月以降に鑑賞した分の記録。ネタバレ注意。 ◆TVアニメ(2011/5視聴完了) 話名 主要新キャラクター 出来事メモ スパロボ対照表* 主要新メカ 第1話惑星海に来たやつら ドン・コンドール(ディーゴ近藤)諸刃のシュテッケン(シュテッケン・ラドクリフ)ビリー・ザ・ショット(真幌羽士郎)かっ飛びの佐馬(佐馬之介・ドーディ)スリーJ(ジャン・ジャック・ジャーニー)ジャッキー・リーファンファン・リー不死蝶のライラ(ライラ・峰里) OP:銀河烈風バクシンガーED:アステロイド・ブルース・ターマ出の銀河烈風/J9II・スリーJ、腹を括って協力・佐馬とライラ、ジャッキー、ファンファン、銀河烈風に加入 バクシンバードレップーン(紺/ビリー)タイフーン(黄/ディーゴ)ハリケーン(赤/シュテッケン)モンスーン(黒/ライラ)サイクロン(水色/佐馬)バクシンガー 第2話「烈」の旗のもとに セゾン財閥/アンリイ・セゾンJr ・銀河烈風、ドーエ星に到着・バクシンバード移動基地形態・「まっことまっこと」・セゾン財閥とスポンサー契約・「シラヌイ党」退治依頼・対士候補が殺到(10名加入) 第3話外宇宙[そとうちゅう]の脅威 クラ・パチーノ[永倉新八](*)サイトー[斎藤一](*)イノゲン・ローム[井上源三郎](*)テディ・ベイン[藤堂平助](*)ジル・クロード[七里研之助]ケイ・マローン[桂小五郎] ・サイトーとクラパチーノの喧嘩「小難しいことはお前に任せる」・シラヌイ党残党掃討戦・バクーフ、外宇宙方面へ艦隊派遣[ランス、エンゲレス、メリーカ]・ラーガ隕石海でのバクーフ襲撃を阻止 ダイモ[シラヌイ標準ロボ] 第4話やとわれ部隊 ジューロ・南[山南敬助]ドナルド・アーウィンカルモ・ダクス[芹沢鴨]エルン・バイスト[清河八郎]アーウィン14世[徳川家茂] ・アーウィン14世護衛依頼→キョーラーク星まで。・ジューロ、銀河烈風に加入・銀河烈風、カルモと出会う カルモ艦 第5話裏切りの報酬 ニイ・ミッキン[新見錦] ・G-IIIイエロー惑星海/キョーラーク星・ゴーショ家を担ぎ出す不穏分子・カルモ、銀河烈風に「子分になれ」・ミーブの谷へ駐屯・エルンとゴーショ家の密約(×エルン・バイスト粛清) カルモ専用ロボ 第6話シェル・ゲイトの戦い プリンス・ゴーショ ・銀河烈風、キョーラーク星の特別警護隊を拝命、テングーム拝領・カルモ、太陽隊結成・ジューロの太陽系情勢解説・シェルゲイト[蛤御門]攻防・プリンス暗殺の陰謀阻止 テングーム[バクーフ、ゴーショ標準]ニオーム[ロングー標準] 第7話襲撃の嵐 ・ロングー星、大使館取り潰し・銀河烈風隊 隊規制定・太陽隊、銀行相手に狼藉(×カルモ、ニイミッキン粛清) 第8話非情の掟 一番隊アントン・パレス(→×粛清)恋人メイーダモーリ・アーウィン[松平容保] <人事編成>総局長/ディーゴ総局長補佐/ジューロ特別隊/ライラ、佐馬副長/シュテッケン一番隊隊長/士郎二番隊隊長/クラ・パチーノ三番隊隊長/サイトー四番隊隊長/イノゲン・ローム五番隊隊長/テディ・ベイン諜報/スリーJ、リー兄妹・シュテッケン、嫌われ者役宣言・モーリアーウィン暗殺の謀略・アントン、脱走の企て 第9話復讐のかなた 兄ペペ・コスタ/妹チコ・コスタ ・オレンジ惑星海トーミ星の兄妹・銀河烈風、ケイとジルをマーク・兄妹の仇は佐馬/Gメン フランク・コスタ 第10話ラーナ星の陰謀 ラーナ星領事ノエル・ノーチェ(→×死亡) ・新太陽系紀元祭出席のための護衛・ライラ回想/アルバ・ミネリ死亡・ケイと手を組んだノエル・ライラ出生の秘密 話名 主要新キャラクター 出来事メモ スパロボ対照表* 主要新メカ 第11話怒れ狼 コーミ星移民リーチSP隊々長ゲルバ・ゾルバ[佐々木只三郎] ・モーリアーウィン、銀河烈風と面会・SP[スクランブルパトロール]隊新設「疑わしきは殺せ」不穏分子狩り 第12話パニック前夜 ロイ・マローン(→×粛清) ・新たな大物勢が多数潜入・ゴーショシティ焼討ち計画(×ゲルバ自決) 焼討ちマシン 第13話サクラ・ゲイトの変 タイロン・イーデン[井伊大老](→×死亡)過激派ニーノ[新納鶴千代](→×死亡) ・士郎、眼に不調→高熱・ディーゴ、地球へ招待・ディーゴ、団子の食い過ぎ・エンゲレスvsゴワハンド ・桜舞い散るサクラゲイト「俺達の敵は『時代』」 第14話激闘・花一輪 ミリー・マデアード(→×死亡) ・ミリー、シュテッケンの母に瓜二つ・銀河烈風 各個撃破作戦 第15話オフス星沖SOS オズマ・ドラーゴ[坂本龍馬]ナーカ・シンタル[中岡慎太郎]Dr.ディネッセンリリィ・ディネッセン ・土星軌道の人口惑星オフス・シュテッケンと士郎、オフス星へ・船内にて オズマとの出会い・士郎、診察でリリィと出会う・2人が心配で仕方のないディーゴ・セゾンJrの武器輸送船襲撃 クリスタルゴ[外宇宙標準] 第16話ゴワハンドの攻防 イーゴ・モッコス[西郷隆盛] ・オフス星からの帰還途中・バイオレット惑星海のゴワハンド星・エンゲレス艦隊vsゴワハンド防衛隊・オズマ、加勢・銀河烈風も加勢 クラウワンカ[ゴワハンド標準] 第17話乱斗[らんとう]・ミーブ荒野 カシム・タローン[伊東甲子太郎](→×粛清) ・銀河烈風、カシム派が多数加入・カシム、ゴワハンドと内通、反乱(×テディ・ベイン粛清) 第18話別れ星出あい星 キャシー・ルー ・カシム派隊士脱走事件・ジューロ、責任を感じ脱走・バーチカル星サーモンレイク(×ジューロ南粛清)・キャシーの前でジューロを斬る佐馬 第19話いつか時をとめて ソニヤ・マルレーン ・カイサ星で外宇宙船見学・シュテッケン襲撃される・士郎とライラ、佐馬とキャシー・シュテッケンを介抱するソニヤ 第20話ロングーの虎 シンザーク・ハイム[高杉晋作] ・シンザーク、キョウラーク星へ・イーゴ、まだ動かず [装備] ニューバクソード 話名 主要新キャラクター 出来事メモ スパロボ対照表* 主要新メカ 第21話獅子たちの群像 ・ロングー星大使館再開・リリー、銀河烈風を訪問・ケイマローン脱獄・キョーラーク、戒厳令発布・vsシンザーク&民兵隊(×シンザーク粛清) 第22話揺れる惑星海[わくせいかい] ユーリ・カズン・アーウィン[徳川慶喜]タクラ将軍(→×自決) (×アーウィン14世急逝)・ライラと出会うユーリ・保守派、ユーリのドーエ星入り妨害 テングーム改造型 第23話炎上ゴーショ・シティ ・ユーリの極秘身辺警護・新惑星連合構想・キョウラーク星/地震デマ作戦 トルシンド[トルサ標準] 第24話運命の嵐 (×プリンスゴーショ頓死)・偽暗殺隊作戦・モーリアーウィン、ユーリと決別・士郎の眼、ますます悪化・銀河烈風、ユーリ直属部隊に ブライダー 第25話翔べよ不死蝶 女帝エリカ・テーナ幼帝マロー ・キャシー、銀河烈風に加入・マロー即位、バクーフ討伐令発令・ライラ出生の秘密判明 第26話燃えろ剣 カイト[島田魁](*) ・士郎、失明・士郎の姉/「星影のララバイ」・リリー、銀河烈風に加入 第27話オズマ暗殺 バトル・ワトキンズ ・オズマ&ナーカ、銀河烈風訪問「欲得が関係ないだけに政治に向かん」・士郎、失明後初戦闘(×オズマ、ナーカ暗殺) 第28話決戦(I) ・トーバミフーシの戦い・銀河烈風vsトルサ艦隊・スリーJ、撹乱衛星手配・第1ラウンドはバクーフ軍勝利 コントロール衛星アルバトロス撹乱衛星 第29話決戦(II) カルツ・ステーキン[勝海舟] ・イーゴ、秘かにカイサ星へ・マルレーン邸 イーゴ/カルツ会談・バクーフ第二艦隊裏切り 第30話決戦(III) コラーク・トーミ公(→×粛清)ナルメモ総督ノーザン ・バクーフ軍、事実上敗北・ゴーショ、総将軍職返還要請・ユーリ、撤退・継戦を決意・ソニヤのお守り、シュテッケンへ 話名 主要新キャラクター 出来事メモ スパロボ対照表* 主要新メカ 第31話ドーエ星ふたたび ナターシャ・ビクトール ・太陽系最大ビクトール財閥・リー兄妹の実の母親 第32話ガオーガに吼える ツルグ・カーイ[河井継之助](→×死亡) ・地球出立、ガオーカ星へ・ガオーカ星攻防戦 第33話壮烈・アエイズ魂 ト-ニ・アーウィン ・アエイズ星攻防戦・少年決死隊出動・トーニに心惹かれるファンファン・列星同盟を説得するイーゴ(×モーリアーウィン自決) 第34話新たなる夢 ブーヨ・ノモルト[榎本武揚] ・ブーヨ艦隊、天王星宙域に帰還・リリィ、過労で倒れる・太陽系自由連邦構想 第35話アステロイドに祈る ・サンダビーダ要塞築城計画・ライラ、ユーリに真相を話す・ジルクロード暗殺隊 暗躍・リリィ、父と共にオフス星に避難 第36話ヌビアの狂乱(前編) ミレイカーメン18世 ・バクシンガー量産計画・隠れヌビア教徒、始動・食糧地帯の焼討ち 第37話巨烈燃ゆ(後編) リチア ・カーメン18世 戦闘宣言・士郎と瓜二つのカーメン・アステロイド撤退作戦「俺は死んでも…烈は不滅だ!」(×ディーゴ墜つ) 量産型バクシンガー 第38話天冥に賭ける ・最後の砦、サンダビーダ・ソニヤ、イーゴを訪問(×佐馬墜つ)(×ジル・クロード粛清) 第39話烈風散華(Fin) ・ディーゴの幻覚・佐馬の落し胤(×?ユーリ艦隊壊滅)(×ケイ・マローン死亡)(×士郎墜つ)(×ライラ墜つ)(×シュテッケン墜つ)・スリーJ&リー兄妹、離脱 ※全く同名or原作再現が一定程度行われているシナリオを記載(「一定程度」の匙加減は完全に管理人の感覚に拠っています。ご了承下さい)。 ※(*):必ずしも初出話ではない可能性あり。
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マイペース二人 ◆aalWSIpMG2 船酔いのような眩暈に襲われていた。ゆらゆらとたゆたう視界の中、空を見ている。 一方の空が茜色に、もう一方の空は闇に染まっていた。 何度目かのひどい吐き気が込みあげてきて、地に伏せたまま吐瀉する。出てくるのはもう胃液だけだった。 切迫した息と一緒に吸い込んでむせ、しばらく咳きこむ。 ――もう……やめてくれ。 咳きこみながら、ぼやける頭でただそれだけを繰り返していた。 だが、それで纏わりつく負の感情が薄れるわけでもなければ、体がそれを取り込むのをやめるわけでもなかった。 「やめろ!」 うつ伏せから仰け反るように半身を起し、纏わりつく負の感情を振り払うように腕を振るったが、そのとたんに視野が回転する。 すっと目の前が暗くなって、コックピットの床に顔を突っ込んだ。負の感情は変わらず纏わりついている。 ――どうすれば……楽になる。 深い脱力を感じて、もう起き上がることすらできなかった。 ――死なら、一瞬で……。 弱った心が逃げ場を求め、一つの考えが浮上してくる。 突然、負の感情とは別の感情に触れたのはそのときだった。 「……ブレン、お前なのか?」 (…………) 「そうか……ありがとう……」 どこか優しく温かいその感情は、ラキの苦しみを和らげていった。 ――死なら、一瞬で……。 あれから何度もラキの思考はそこで立ち止まった。 そのたびにブレンの心に励まされ、頭から払い落し、ただじっとうずくまって耐え続けた。 短いような、長いような時間が流れ、気づくと纏わりついている負の感情は薄れていた。 眩暈と吐き気をこらえて起きあがる。震える手を壁についてよろよろとコックピットから這い出てみる。すでにあたりは暗かった。 体は未だに負の感情を取り込み続けていたが、放送直後に比べればわずかなものだった。 それでも自分の体が他人の悲しみを喰らい続けているという自己嫌悪は胸の中に重く沈んで、どうしても拭うことができなかった。 「ブレン、これから私はどうすればいい?」 大きく見上げて話しかける。 (…………) 「私か?私は……ジョシュアがここで出会った人――アイビスという女と会ってみたい。 会ってどうするというわけでもない。ただ会ってみたいんだ。 ブレンはどうしたい?」 (…………) 「そうか……。なら、そうしよう」 出てきたときに比べると幾分マシな足取りでコックピットに戻る。ムッと鼻を突く臭いが立ち込めていた。 「ブレン、すまない。お前も私もひどいかっこうだ」 思わず謝罪の言葉が口をついて出た。 (…………) 「心配しなくてもしっかりと洗う。まずはH-8に向かうぞ」 (…………) 「仕方ないだろう。一番近い補給ポイントがそこなんだ。 そこまで行ったら洗う。だから心配するな。大丈夫だ」 砂地に大きなくぼみを残して蒼い巨人は浮き上がり、飛び立つ。 その姿はやがて暗い空の闇へと消えていった。 波一つない穏やかな水面に小さな波紋が生じる。その中央でぽつんと一人の女性が顔を出していた。濡れた蒼い髪が艶やかだった。 ――何も見えないな。 夜空を見上げて彼女は思う、この空はかつて地球を閉ざしたものによく似ていると。 突如、女は何かに呼ばれたような仕草を見せる。 暗い水面に映ったさらに暗い影が彼女の周囲にあった。水の中に何か大きなものが潜んでいる。 大きく息を吸い込んで肺を酸素で満たし、彼女は水の中に潜る。伸びてきた大きな影にしがみつくと彼女は影の中に吸い込まれ消えていった。 水面がせり上がり、女の髪と同じ色の巨人が姿を現し、やがてふわりと浮きあがって水面から離れる。 彼女たちの目的地の小島はもうすぐそこだった。 「小生の名はギム・ギンガナム。名乗りを上げい!」 突然通信が飛んできて目を丸くする。移動をブレンに任せて、濡れた体を拭いているときだった。水で洗い流したためコックピットのそこここはまだ濡れている。 「グラキエースだ。ジョシュアを知らないか?」 急いでパイロットスーツを着込みつつ通信を返す。同時に一番知りたい情報を訪ねた。 「知らぬ。聞きたいことはそれだけか?ならば、いざ尋常に勝負ッ!!」 「いや、他にも聞きたいことはある」 「ここより先は問答無用!さあ、漢に言葉は無用!!拳で語り合おうではないかああぁぁぁぁあああああ!!」 前方の小島から闘争心を燃やしつつ、一機の白い機体が飛び出してきた。 瞬く間に二者の距離は狭まり、剛腕がブレンに差し迫る。シャイニングの拳がブレンの顔面に吸い込まれ、 「私は女だ。断る」 空をきった。 ――この移動法は……。 見知った移動法に思わず笑いが込み上げてくるのをギンガナムは感じた。 振り返り、小島に転移した敵機の姿を確認する。 よくよく注意してみてみると、その姿は奴が乗っていた機体にどことなく似ていた。そして、それ以上に奴のツレの機体に酷似している。 ――少なからず奴に関係があるやもしれぬ。 「ふっ……ふははははははは……!!面白い。面白いぞ! グラキエースとやら、お前の機体はやつらの機体によく似ている」 「やつら?」 「そう。似ているのだよ、アイビス=ブレンにな!!」 そうして彼は語り始める。 どん、と低い地響きのような音がして、立ち並ぶビル群の通りに面したガラスというガラスが白く濁った。 一拍置いて同様の地響きが再び轟き、砕け散ったガラスの破片が光を撒いたように舞い散るなか、白い隻腕の巨人はアスファルトを踏み砕いて着地する。 その巨人の中で肩幅いっぱいになびかせた長髪の一部を頭頂部で結い、胸に日の丸の輝く全身黒タイツを纏った男は(特に意味なく)仁王立ちしていた。 その男の名はギム=ギンガナムという。 「誰も居らんではないか!!!」 計器を睨めつけて本日二度目のセリフを叫ぶ。 彼は一人の参加者を追いかけて移動中であった。 しかし、その相手が残していった目印――巨大な足跡もA-1の端で光の壁に遮られて打ち止めである。 壁の向こうは地図を見る限り草原地帯。足跡を追える可能性は低かった。 「紫雲統夜、逃したか」 しかし、そもそもただ対戦相手を求めるだけならば、あの場から動く必要はなかった。 あの場には遠方とはいえ二機の戦闘機が視認できていたのだ。 だが、大勝負を終えたばかりの彼は「味が軽すぎる」とか言って、それに大した興味も抱かずに、市街地に残された足跡を追い始めた。 その欲張った結果が現在である。 とにもかくにも一度壁の向こうを確認しておこうと、再び動き出そうとする。 『アー、アー、ただいまマイクのテスト中ですの。…こほん…最初の定時連絡の……』 その矢先に、突然幼い少女の声が響いた。 「ふはははははっ!面白い!!」 放送が過ぎ去り、静寂を取り戻したビル街に笑い声が響きわたる。 放送に連なった名の中にアイビス=ブレンの名はなかった。それはすなわち、あの状態から見事生き延びて見せたことを意味している。 それがたまらなく愉快で、再戦が待ち遠しい。 先の戦闘の五分の攻防、前二戦の大味な戦闘も良かったが、経験と技術に裏打ちされた緻密なアイビスの動きは驚嘆に値するものだった。 しかし、最後の最後で納得のいかない戦いでもあった。 突如乱入者に邪魔をされ、逃げ切られたこともそうだが、互いに最後の一手を放とうとしたあのとき、アイビスとやらが銃口に湛えていた光が霧散したことが解せなかった。 ギム=ギンガナムが望んだのはあのような幕切れではない。 真っ向からシャイニングフィンガーであの光に立ち向かい、捻じ伏せる――それこそが彼が望んだ結末だったのだ。 その後の動きもこれが同じ機体かと思えるほど拍子抜けのする動きだった。そして油断した結果、自分は腕を斬りおとされた。 つまりは何かと納得のいかない決着だったということだ。 ――だが、決着は決着ではなかった。 再戦を思い浮かべるだけで血がたぎり、肌が泡立つ。口元が知らずとほころんだ。 「ふははははっ!見つけてやる!見つけてやるぞ、アイビス=ブレン! 小生から逃げ切れると思うな!!」 堪えようともしない笑い声が再び響き渡る。そうやってひとしきり笑い飛ばしたあと、ゆっくりと視線を動かし、計器の一部が目に入った。 エネルギーゲージがレッドゾーンだということにそこで初めて気づく。 「輜重の確保は戦の基本であったな」 ガサガサと古臭い地図を取り出してきて、紙面に目を泳がせる。F-7・G-4・H-8の三か所の補給ポイントが書き記されていた。 「H-8が近いな……」 呟くと進路を北西に定め、移動を再開する。二つ目の光りの壁を超えたとき、足場が突然消えてシャイニングは水中へと落下した。 「……というわけだ」 「なるほど。それで補給を終えたころに私が現れたというわけだな」 「いかにも。悪いが、アイビス=ブレンとの再戦の予行演習とさせてもらうぞ!!」 おそらくアイビス=ブレンと同じ特性を持っているであろう機体を前にして、嫌がおうにでもギンガナムのテンションはあがる。 それに呼応するように冷却装置を展開させ、シャイニングはスーパーモードを発動させた。 両者の間に緊迫した空気が流れた次の瞬間、 「いやだ。私は逃げる」 長話の間にちゃっかり補給を完了していたブレンは掻き消え、ギンガナムは孤島に一人取り残された。 鬣を彷彿とさせる冷却装置が落胆したように虚しく閉じた。 G-8水中に突如蒼い巨人が姿を現した。 ――アイビス・ブレン。 巨人の中でラキはその言葉を反芻する。 今、自分が乗っている機体はネリー・ブレンという。ネリーさんのブレンパワードだからネリー・ブレンだ。 ならば、アイビス・ブレンとは、おそらくアイビスのブレンパワードのことだろう。同じブレンパワードだ。ギンガナムが似ているといったのも頷ける。 だが、アイビス・ブレンを探せばアイビスに会えるのかというと、そういうわけでもなさそうだった。 ギンガナムの話ぶりだとアイビス・ブレンの乗り手は男だ。しかし、ジョシュアの話に出てきたアイビスは女だった。 つまりはジョシュアとガナドゥールのように愛機と引き離されてしまったということなのだろう。 「ブレン、アイビス・ブレンというブレンパワードかアイビス本人を知っているか?」 (…………) 「そうか……」 (…………) 「いや、こっちこそすまない」 ひとまず思考をそこで中断する。 巨人は目の前のスイッチに手を伸ばし、二度目の補給を開始した。 【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状態:テンション急降下(気力80) 機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷 現在位置:H-8小島 第一行動方針:倒すに値する武人を探す 第二行動方針:アイビス=ブレンを探し出して再戦する 最終行動方針:ゲームに優勝 備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】 【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神やや安定。放送の時刻が怖い 機体状況:現在補給中 現在位置:G-8水中補給ポイント 第一行動方針:アイビスを探す 最終行動方針:??? 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません 備考2:負の感情の吸収は続いていますが放送直後以外なら直に自分に向けられない限り支障はありません】 【時刻:20 00】 BACK NEXT 休息 投下順 青い翼、白い羽根 もしも、その時は 時系列順 少女ハンター・ランドール BACK NEXT アンチボディー ―半機半生の機体― ギンガナム 失われた刻を求めて Time Over ―私の中のあなたにさよならを― ラキ 暗い水の底で
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交錯線 ◆7vhi1CrLM6 一瞬、刃先が常闇の中に浮かび上がった。 咄嗟に腕が動き、鞘を盾に受け止める。高く澄んだ金属音が狭い通路に反響した。 続けて一閃二閃。 鞘を払う暇も余裕もなく、視神経を総動員して刃の動きを追う。 補給を行なった影響か。あるいは損傷の修復が進んだ影響か。動きが前よりも早く巧緻に長けている。 必死になって動きを追った。 四エリアに跨る広大な南部市街地。その下に網の目のように張り巡らされた地下道には、日の光も届かない。 刀身が鞘に触れたその瞬間だけ、カッと火花が飛び、互いの姿を浮かび上がらせていた。 圧し掛かり押し潰してくるかのような圧力。刃を防ぎつつ圧されてジリジリと後退していく。 場所が悪い。幾ら幅員60m高さ70mを超える広さとはいえ、所詮は通路。 40mを超えるヴァイサーガに換算してみれば、それは僅か人二人分のスペースでしかない。刀の取り回し一つにも苦労する。 対し自機の三分の一程度の大きさしかないマスターガンダムは、このスペースを遥かに有効に活用できる。 地の利がどちらにあるのかなど、明白。 気を抜けば見失いそうな刃を受け止める。それはクナイの型をした烈火刃の白刃。 人間換算すればヴァイサーガにとって15cm程度刃渡りしか持たないそれも、マスターガンダムにしてみれば刃渡り45cmの立派な脇差となる。 元々が投擲用で斬撃に向かない形状とはいえ、補給後に一本よこせと言ってきたこいつに渡すんじゃなかった、と後悔が頭を掠めた。 一つ。二つ。三つ。連続して火花が瞬き、両者が間合いを取る。 見失わなければ受けられる。ヴァイサーガはそういう機体だった。 ダイレクト・フィードバック・システムが思考を拾い、周囲の地形を考慮した上で最適なモーションを選び出す。 だから、見失わなければ受けられる。 そして見失わないだけの間合いの取り方は、ここまでの同行中『暇だから』と称してさんざっぱら襲い掛かられたお陰で身につき始めていた。 刃が閃く。外から内に侵入してくる横薙ぎの一閃。 鞘を縦に通路に突き立て、受け止める。そのまま膠着し、力勝負の押し合いの状態に縺れ込んだ。 「いいねぇ。やるようになったじゃねぇか。最初とは大違いだ」 「五月蝿い! 黙れッ!!」 二者の満身の力を引き受けることになった鞘と烈火刃がカタカタと小刻みに震え、音を立てていた。 ヴァイサーガの腕力なら押し切れる。そう思った瞬間に、圧が消えた。 マスターガンダムの手の甲で一回転した烈火刃が鞘の内側へするりと滑り込む。 「ならこれはどうする? クク……防いで見せろよ、統夜」 そして、圧の方向が変わった。外から内に向かっていた圧が、気づけば内から外へと向かっている。 鞘が外に弾かれ、ガードが抉じ開けられる。同時に懐に滑り込んでくる黒い影。 しまった、と自らの失態に気づいたときにはもう遅い。とんっと軽く腹部装甲に足裏が触れたと思った瞬間、押されて仰向けに倒された。 蹴られたわけではない。損傷を与えぬように優しく足の裏で押されたのだ。 咄嗟に起き上がろうとして、直に耳に響く濁音を聞く。 コックピットカバー越しに響いたその音は、ハッチを隔てた向こう側に足場を確保された音だ。 モニター見れば、ガウルンが烈火刃をコックピットに突きつけているのも分かる。 荒い呼吸を整えて一つ大きな息を吐き、コックピットを開け放った。 「……参った。降参だ」 汗だくの体で倒れたヴァイサーガの上に立ち、そう言うしかなかった。 どう考えてもヴァイサーガが体勢を立て直すのより相手の一撃がコックピットを貫く方が、早い。 ガウルンが機体から降り、歩み寄ってくる。 「やれやれ、軽はずみに褒めるもんじゃねぇな。もう少し相手の動きをよく見て先を読め。素直に受け止めすぎだ」 「……あんたが言えることかよ。暇って理由だけで隙も覗わずに襲い掛かってくるあんたに」 「俺か? おいおい、よく俺のことを見もしないで心外なことを。お前が気づいてないだけで俺はよぉく見てるぜ、統夜。 クク……頭のてっぺんから爪先まで全身余すことなく、それこそお前の尻の穴の中までなぁ」 舌なめずりするその姿に生理的な嫌悪と身の危険を察知し、怖気が走る。 危険。危険。危険。 さんざ分かっていたことだが、この男は危険。 そして同時に、そうやって圧されることのやばさも肌は敏感に感じ取っている。 気を呑まれるな。臆するな。弱気を見せれば瞬く間に喰われるぞ。 何故押し黙る? 口を開け。震えるな。睨み返せ。お前は何に腹を立てていた? この男の理不尽さにではないのか? だったら、それを怒りに変えろ。意地でもいい。それを糧に反発し、反抗してみせろ。 ごくりと生唾を飲み下し、自分に言い聞かせる。ガウルンの顔を見据え、睨みつけた。 「おやおや、ご機嫌斜めなご様子で。だがそうやって俺のオモチャになっている内は、何をしても説得力に欠けるねぇ。 分かるか? 手を組むときにああは言ったがなぁ。今のお前は殺す価値もない腑抜けたただの餓鬼だ。 あのフェステニアとか言う嬢ちゃんの方がよっぽど、クク……殺しがいがある。お前、今あの嬢ちゃんと殺り合ったら殺されるぞ」 「そんなことッ!!」 抗議したその瞬間、襟首を掴まれて装甲板に引き摺り倒される。 ヴァイサーガの硬い装甲板に顔面から突っ込んで、蛙が潰れたような声が口から漏れた。 咄嗟に顔を持ち上げようとして、厚く硬い靴底の感触を後頭部に感じる。踏み潰され、再度顔面が装甲板にぶつかる。 「分からないって? 分かるさ。勘だがな。当るんだよ、こういう勘はな。だがなぁ、俺の獲物を横取りしようってんだ。 それじゃあ困る。最低でも観客を沸かせるぐらいはしてもらわねぇとな」 頭の中で『殺される』という直感と『大丈夫だ。残り一桁までは殺されない』という理性が、喧嘩していた。 鼻頭が痛い。どろりした赤い液体が装甲板をぬらしている。 「いいか。お前はあの嬢ちゃんにいいように使われて、カモられてたんだよ」 俺が? テニアに? そうだ。そうだった。 ホンの一時間ほど前に芽生えた感情を思い出す。 「お優しい仲間だの信頼だのをちらつかせて、お前の力を骨の髄までしゃぶり尽くそうとしてたのさ」 そうだ。俺は偽者の主人公だった。彼女達が都合のいいように誂た、偽者の。 「言ってみろ。誰のせいでお前はこんな目にあっている?」 何故? どうして? 俺はこんな理不尽な扱いを受けている? 決まってる。あいつらだ。あいつらと―― 「答えろよ、ほら。お前が今こうして苦しんでんのは、あの化け物に目をつけられる羽目になったのは、誰のせいだって聞いてんだ」 ――こいつのせいだ。 明確な殺意を持ってそれを思った。踏みつけられたままの頭を渾身の力で持ち上げる。 「そうやって俺を見下して満足か? 満足なんだろうな、あんたは。でもそれは俺にとっちゃ屈辱なんだ。 殺してやる……殺してやる! テニアも、お前も、俺が必ず殺してやるッ!!」 そうして四つん這いの姿勢のまま目を剥き、下から睨み上げて言った。ガウルンの口元が獰猛に笑う。 その瞬間、再び力の込められた足に踏み潰されて、三度装甲板に頭が打ちつけられる。 きな臭い臭いが鼻から脳天に突きぬける。じっとりと粘っこい視線を背中に感じていた。 そのとき、上空を何かが通過していく音を聞く。飛行場付近でよく耳にするジェット機が低空を飛行していくような、そんな音だ。 地下と空中。大地という遮蔽物の影響が、常よりも利きの悪いレーダーの性能を更に低下させているのだろう。 ヴァイサーガ、マスターガンダム共に接近を知らせる警告音はない。 踏みつけていた足がどいたので、そろりと立ち上がりながら視線だけでガウルンの表情を盗み見た。 ◆ 陽が昇って改めて目にするそこの光景は、悲惨な有様だった。 初めてロジャーが訪れたときこの場所は、人がいないという一点を除けばまだ普通の街だった。 パラダイムシティのドーム内にも劣らないほど大きく発展した市街地だった。 それが今はどうだ? 見る影もない。 高層ビルは倒れたドミノのように転がり、中には地割れに呑み込まれているものもある。 建物の多くは倒壊して崩れ去り、普段はコンクリートに包まれて見ることのない骨組みが無残にもその姿を晒していた。 通りはまだ火事の煙が抜けきらずに靄がかかったようになっており、焼け爛れた家屋がその左右に連なっている。 同じ廃墟でも長い年月をかけて風化したといった風情の中央廃墟とは大きく異なる。 ここには大地震を被災した直後の様な、まだ壊れて間もない生々しい傷跡が広がっていた。 中でも一際被害が激しいのが、息絶え無残にも死骸を晒している二首の竜の周辺だ。 そこは遠目でも分かるほど地形が窪んでいた。無敵戦艦ダイを中心にして大きな円状に広がる窪地。 高低差は100m弱と言ったところだろうか。まるで蟻地獄のように全てを地の底へ引きずり込んでいる。 最早何のものかも分からない破片が渇いた砂のように窪地を埋め尽くし、僅かに残った高層ビルがそこに突き刺さっている。 所々に見える穴は地下通路の穴だろう。それも大半は瓦礫の砂にふさがれていた。 「これ……私達がやったんだよね……」 その廃墟の街並みの上空に凰牙を走らせながら、周囲の惨状に目を向けていたロジャーは、その呟きにチラリと通信モニターを見やる。 何かを考えているのか、普段活発で勝気なこの少女には見られないどこか沈んだ顔がそこにはあった。 「気にすることはない。君の責任ではないさ」 「でもね、ロジャー。この街は元はちゃんとした綺麗な姿をしていて、私達が来て壊しちゃったのよ。 私達が来たときには、もう人はいなかったけど。いろんな人が一生懸命になって建てて、笑ったり泣いたりしながら過ごしてたはずの場所。 長い時間をかけてちょっとずつ手を入れてもらって、大事に大事にしてもらって、そうやって何代もの間、家族を守ってくはずだった場所。 家ってそういう場所でしょ。それを私達は突然やってきて勝手に壊しちゃったのよ」 「だがここには最初から人はいなかった。人が暮らしていた痕跡が……」 「そうだとしても。本当は人がやってきて使ってもらえるのを待っていたんじゃないかしら」 不機嫌に割り込んできたソシエの様子に、眉を顰める。 「君は何が言いたい?」 「……別に」 その言葉を境に通信モニターのソシエがそっぽを向いた。 ソシエらしからぬこの様子は、市街地の惨状を突然戦火に見舞われた故郷に重ねたがゆえの感傷だった。 今のソシエの目には、眼下に広がる風景があの成人の日に焼かれた故郷のビシニティに、お父様を亡くしてしまったハイムのお屋敷に重なって見えてしまう。 だが、そんなことが説明もなしに分かるはずもない。まして相手はロジャーである。 ビッグ・オーを呼ぶたびにビルやら、道路やら、街のインフラを破壊して登場させるこの男に理解を求めるというのが、土台無理な話なのである。 説明したとて理解を示すかどうかすら怪しい。 よって『何かよくわからないが、機嫌を損ねたことは確からしい』という程度が、ロジャーの見解だった。 やれやれとモニター越しに臍を曲げた少女の姿を一瞥して、そういえばと思い出す。 そういえばあれは、最初にここに向かっていたときのことだっただろうか。リリーナ嬢にも臍を曲げられた。 あのときも確かそっぽを向いてだんまりを決め込んだ彼女が、一切返事を寄越してくれなくなったのだ。 妙な可笑しさを感じて、悪いと思いつつも口元が緩むのを感じた。そこへ声が飛ぶ。 「ロジャー! 何にやけてるのよ。だらしがないわね」 その台詞を聞いて、いや違うな、と思った。もういつもの調子に戻っている。 こういう切り替えの早さと歯に衣着せぬ言葉使いにお転婆な態度は、リリーナ嬢にはなかった。 それぞれにそれぞれの良さがある。二人を混同して捉えるなど、両者に対して失礼というべきだろう。 「そうかな? すまない。以後気をつけるとしよう。それでどうした?」 「見つけたわよ」 「さて、ソシエお嬢様は何を見つけたのかな?」 少しからかってみたくなり、笑いながらまぜっかえす。 「飛行機よ。飛行機。あれでしょ? あなたのお知り合いが乗っていたって飛行機は」 そう言って示されたものに目を向けて真顔になる。 無敵戦艦ダイよりもやや西に、瓦礫にその頭を埋めるようにして遺棄されている戦闘機があった。 機首が折れ、右翼が引き裂かれ、尾翼も失われており機体表面を覆う装甲板も少なくない数が剥がれ落ちて、その内部を晒している。 二度と飛び立つことは適わない堕ちた戦闘機。以前目にしたときよりもさらに損傷の進んだ無残な姿。 だが、濃紺の機体色に黄色のアクセントを取り入れたそれは間違いなく目的の機体だった。 「YF-21に間違いない。ガイの機体だよ」 「無事だといいわね……わっ!!」 直接的ではないにせよYF-21を落した責任の一端を感じて神妙になりかけたソシエを見て、急に舵を切った。 未だどこにいるのか分からないが、通信モニターの映像からゴロンゴロンと転がる羽目になったのは分かる。 「ちょっと、何やってるのよ! 真面目に運転なさい!!」 頭をさすりながら飛んできた予想通りの怒鳴り声に、軽く笑う。 「そう、その調子だ。あれこれ考えて沈んでいるのよりもそうやって怒鳴っているほうが君らしい、と私は思う」 「どういう意味よ!」 「いいぞ。その調子だ」 「あ~、馬鹿にして」 「では元気が出たところで一仕事頼むとしようか。私がYF-21を調べる間、コックピットに座っていて貰おうか」 凰牙を着地体勢に移しながら言った言葉に「座ってるって、それだけ?」と言葉が返る。 「いや、周囲の索敵をお願いしよう。ここは視界が悪いのでね。何が潜んでいるのか分かったものではない」 「分かった。敵を見つけたら教えたらいいのね。他には?」 「とりあえずは以上だ。そうそう、なるべくなら凰牙は動かさないで貰いたいな。 下手に触られて壊されたのでは目も当てられない」 「失礼ね。私はこれでもミリシャで――」 そんなやり取りを続けながら凰牙をYF-21の近場へ。 半分埋没しながらも窪地に刺さり、高く伸びている高層ビルの瓦礫に足を降ろした。 総重量400tを超える重みを受けて瓦礫が軋みを上げ一瞬冷やりとしたが、それだけだった。 胸部に収まるコックピットのハッチを開け放ち、ソシエと入れ替わる。そのまま一人で地上へ。 「ロジャー!」 大声で呼ばれて振り返る。何かを投げる姿が見えて、何か黒い物が飛んでくる。 慌てて受け止めて確認してみれば、それはロジャーが外部から持ち込んだ時計型の通信機だった。 待ちかねていたかのように通信が繋がる。 「もう少し丁寧に扱ってもらいたいものだ。だが返していただけたのだ。この際文句はしまっておこう」 「私の物をどう扱おうと私の勝手じゃない。それに貸すだけよ。通信に必要だから一時的に返しただけなんですからね」 どうやらもう既にソシエの中ではすっかり彼女の物となっているらしい時計を腕につける。 いつ、どうやって、差し押さえられた物品を奪い返そうかと溜息を漏らしながらロジャーは、YF-21に向かって瓦礫の中を歩き始めた。 約15分後、YF-21のキャノピーから飛び降りるロジャーの姿があった。 一通り調べ終わって収穫はゼロ。ガイの行方に繋がる手がかりは何もない。 ただ遺体が無いという事は少なくともあの時ここでは死ななかったのだろう。 生きている。とりあえずはそれ満足したつもりになって、凰牙に戻ろうとしたその時通信が入った。 「ロジャー、そっちに向かって人が歩いてる」 「歩いて? 機体には乗っていないのか?」 僅かに眉を顰めて言う。その物言いに過敏に反応したソシエの声が返る。 「そうよ。どこにも機械人形の姿は見えませんもの」 おおよその位置を聞いた上で、これから交渉に入ること、待機していることを手短に伝えると通信を切った。 機体にも乗らず生身を晒して歩いている。そのことの意味を探る。 しかし、その答えが出るのよりも早く―― 「よぉ、ネゴシエイター。クク……誰かと思ったらあんたかい」 その男はやって来た、慣れた足取りで瓦礫の海を乗り越えて。 オルバとテニアに会ったときとは違う。目が合ったときからこの男が放っている只ならぬ威圧感を感じた。 「前にどこかでお会いしたかな?」 「おいおい。あれだけ最初の場で目立っておきながらよく言うぜ。あんたを知らない奴のほうがここでは珍しい」 不安定な足場にも関わらず全く危なげのない所作で男は近づいてくる。 余りにも動きが慣れすぎている。そして、この廃墟の光景が余りにも似合いすぎていた。 それは味方にすれば頼もしいが、敵にすれば怖ろしい。念を入れるつもりで心中に身構える。 「なるほど。ここでは私は有名人というわけだ。それでどうやら私に会いにきたようだが、ご用件をお伺いしよう」 「何、大した用事じゃないんだがね」 男の視線が背後のYF-21へと注がれ、顎でしゃくる様にして指した。 「そいつに乗ってたパイロット――アキトの行方をあんたなら知ってるかと思ってね。それとまぁ情報交換と言ったところかな」 「アキト? ガイではないのか?」 「ガイ? そいつは知らねぇな。まっ、そいつでもいいか。そのガイって奴の居所を教えてくれ」 「ガイを探してどうするつもりだ?」 「別に。あんたにゃあ関係のない話さ」 あんたが気にかけることじゃない、という風に肩を竦めて見せた相手。 ガイの行方はこちらも気になることだったが、話にならない、と同じように肩を竦めて返す。 「ならば私も教える義理はないな」 「そりゃそうだ、と。まぁ、いい。で、ネゴシエイター、あんたは何だってこんなところに来たんだ?」 「それも答える義理はないな」 「おいおい、あんたが俺にしたのと同じ質問だぜ。俺が答えたんだ。あんたも答える義理があると思うがな」 懐からサングラス取り出しつつ「そうだったかな」と恍けた様子で返す。 さて、問題はこの男にJアークとナデシコの交渉について話すべきか否か、だ。 オルバとテニアには話した。だがそれは、二人がナデシコに関連する人物であるところが大きい。 その他に当るこの男に話すべきなのだろうか。 サングラス越しに男の様子を覗う。 どこか恍けた様子で薄い笑いを絶やさないこの男。身のこなしと漂わせている雰囲気から只者でないのは分かるが、どうにも評価を付け難い。 今、目にしている姿が虚なのか、実なのか、判別が付かない。かなりの曲者ということだろう。 交渉というのは、どの程度相手に信頼がおけるどうか、というのが大きく関わってくる。 その点においてえたいが知れないというのは、それだけで途方もないアドバンテージとなり得るのだ。 オルバよりもさらに場慣れしていると言える。 ではどうするか? このまま何食わぬ顔で情報を交換し交渉を終えるのか。あるいはこの男もあの場へと招くのか。 答えは決まっている。 受けた依頼の内容は『Jアークとナデシコの交渉の場を整えること』そして、『なるべく多くの者をその場へ集めること』だ。 ロジャー=スミス個人の判断が及ぶところではない。ゆえにこの男を例外にするわけにはいかなかった。 「実は今、場を整える依頼を引き受けている。ある場所へなるべく多くの者を集めるのが私の仕事だ」 「なるほど。それで人を探してここへ来たってわけか。残念だが、ここには俺しかいないぜ」 「なに、君も例外ではない。例え今あの化け物の言いなりになって人を殺めている者だろうと考える時間は必要だ。 どのような諍いや因縁であれ、話し合いで解決できるのならばそれに越したことはない。その為の場だよ。だが――」 一度言葉を区切る。 「だが、その場に争いを持ち込もうとする者は、この私ロジャー=スミスの名にかけて許しはしない」 凄みを乗せた声で言い切る。覚悟と信念の入り混じった声。脅しではなく警告だった。 だがそれを風と受け流し、目の前の男は答える。微塵も気圧された感は覗えない。 「そいつぁ、怖いな。いいぜ。参加してやる。で、どこなんだ? その酔狂な集まりはよぉ」 「次の放送前にE-3地区にあるクレーター、そこへ来てもらいたい。ラクス=クラインという少女が眠る墓の前だ。行けば分かるだろう」 僅かな後悔を感じながら答える。 この男が本当に交渉するに値する人物だったのかどうか、スッキリしないものを感じていた。 だが一度口にした言葉をなかったことにするというのは、不可能だった。 何かの分野において一流の人物が一癖も二癖もある者である、ということは多い。 そしてそういう人物ほど自分という人間を隠すのに長けている。この男は果たして大当たりか。大外れか。 今はまだ判断が付かない。どちらともなく情報交換に移る。 交渉の時間は割り切れない気持ちを残しながら、一見穏やかに過ぎ去っていこうとしていた。 ◇ あらかたの情報を交換し終えてガウルンは考える。 ロジャー=スミスが把握している人間の位置。行動目的。危険人物。目ぼしい情報は既に手に入れた。 代わりに与えた情報はというとギャリソンとか言う祖父さんを始めとする死人のものばかり。それと出鱈目だ。 とは言え全くの出鱈目ばかりでもない。 例えばカシムとミスリルの連中の情報だ。無論カシムはここにはいないが、奴がいればどういうスタンスで行動したのかは想像に難しくない。 他の連中にしたって同様だ。 現実の人物像を元に創り上げた偽の情報。それを最もらしく流してやった。 下手な情報よりも現実に矛盾が発生しない分だけ問題が起こりにくい。何しろ真偽の程が分からないのだ。 それを調べ、偽物だということを立証しようと思えば、生存者のほぼ全ての情報が必要となる。 残り人数が分からない以上、誰も知らないところで誰かが生き延びている可能性を、完全に否定することなど不可能。 それにしても面白いことになってきた、と思いつつ気づかれないようにそれとなく周囲の様子を覗う。 機体の姿以外、声も、姿もばれていない事に付け込んで情報を得ることに関しては、予想以上の成果を得た。 ならば後の関心は統夜がどう出てくるのか、だ。 念を入れてマスターガンダムこそ隠して来たものの、統夜の自由を奪うようなことはしていない。 何も言っておらず、制限もつけていない。 ついでに言えば、自分がどう動くつもりなのか、それすら告げていない。 その状況下でどう動いてくるのか、それなりに興味があった。 これ幸いと逃げ出すようなら興醒めもいいところだが、そんな腑抜けならば最初から興味を持つ自分ではない。 何らかの行動を起こすはずだ、と妙に確信づいていた。 それに自分が統夜の立場なら、これを機会と見て自分を襲うだろう。そうすればマスターガンダムを出さざる得なくなる。 そのマスターガンダムは、過去の交戦でネゴシエイターに見られている。上手く行けば交渉人を味方に付けられるという寸法だ。 二対一の多勢を生かして厄介な俺を葬り去り、同時にネゴシエイターに取り入る。後は機会を見て面白おかしく暴れてやればいい。 信用させて裏切り、ネゴシエイターの間抜け面を拝む。中々に魅力的だ。想像しただけで愉快になってくる。 自分ならばまず間違いなくそれを選択するだろう。そして今の自分もそれを望んでいる。 一対二となれば、今はまだ発展途上で役不足の統夜と言えど楽しめる。知らず笑みが漏れた。 「どうした? 何か可笑しいのかね」 「何にって……そりゃぁ――」 どうした、統夜。お前はこの機会を逃すほど間抜けではないのだろう? 何をぐずぐずしている? 見ているだけでは機は失われていく。時間も余裕もない。ならどうすればいい? 簡単だ。 この好機を生かしてみせろ。今すぐ。今すぐにだ。さあ。さあ! さあっ!! さあッッ!!! さあッッッ!!!! 「そりゃぁ、あんたにさ。他人の本性も見抜けないでよく交渉人が務まるものだ。なぁ、ネゴシエイター」 交渉人が眉を顰め気色ばむのとほぼ同時に、瓦礫の山が跳ね上がった。 舞い上がる瓦礫を身に纏い、中空で身を翻す濃紺の機体はヴァイサーガ。それが鞘を払う。 その光景を背にガウルンは、呆気に取られたロジャー=スミスを無視して、高々と右腕を天に掲げる。 「クク……ずいぶんと遅かったじゃないか、統夜。首を長ぁーくして待ってたぜぇ。 どうした、ネゴシエイター。もっと楽しそうな顔をしろよ。楽しい楽しいパーティーの――始まりだ」 そして、指を弾く渇いた音が、辺りに妙に大きく木霊した。 「ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!」 →交錯線(2)
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ソシエ=ハイム 氏名 ソシエ=ハイム 性別 女 出典 ∀ガンダム 人称 一人称:私 二人称:あなた 三人称:あなたたち 特殊技能 飛行機とMSの操縦 性格 気が強く、行動力があり、ロラン(主人公)がムーンレィスと判明した際父をムーンレィスに殺されていたとはいえ平手打ちを食らわすなど過敏な部分がある。 備考 鉱山領主ハイム家の次女であり家族構成は父と母と姉のキエル、主人公であるロラン・セアックが彼らに使用人として仕えている。ディアナ・カウンターの攻撃で父を亡くし、母が気を病み、復讐のためイングレッサ・ミリシャに入隊する。当初は『当時最新鋭のレシプロ機』に乗りMS相手に喧嘩を売り何時撃墜されるんだろうと視聴者をヒヤヒヤさせていたが後にMSカプル(ダブルゼータのカプールの改修版?)が発掘されたためそれに搭乗し終盤まで戦い続ける。劇中ではギャバン・グーニに結婚を申し込まれ承諾するものの彼は核の爆発により死亡。姉だと思っていたキエルも実は敵の総大将のディアナで言われるまで気付かったり、ラストでもロランに振られたりと生き残ったヒロインなのに全体的に不幸である。 CV 村田秋乃
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VF22S・Sボーゲル2F 機体名 VF22S・Sボーゲル2F 全長 19.62m 基本設定 空重量 9,340kg 設計 ゼネラル・ギャラクシー エンジン 新中州/P&W/ロイス FF2450B熱核バーストタービンエンジン×2 バーニアスラスター P&W HMM-6J 最大速度 M5.07+ 航続距離 無限 上昇限度 無制限 主武装 エネルギーキャノン×2 エネルギーキャノン×2、ピンポイントバリアシステム×1、ガトリングガンポッド×1他多数。 ピンポイントバリアシステム ガトリングガンポッド 特殊装備 変形機構 バルキリー⇔ガウォーク⇔バトロイド ピンポイントバリア 移動可能な地形 空 〇(×) 陸 ×(○) 海 ×(×) 地 ×(×) 括弧内はガウォーク、バトロイドモードの移動可能地形 備考 このVF-22はスーパーノヴァ計画に基づき開発されたYF-21を量産型として再設計した機体。YF-21の最大の特徴であった脳波コントロールシステム(BDI SYSTEM)を排しているため限界性能を引き出すことは出来ない。そのため操縦系を手動コントロールへと再設計している。主に特殊任務用として運用されており、少数ながら配備されている。
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揺れる心の錬金術師 ◆7vhi1CrLM6 それを最初に見た――否、感じたとき、星のきらめきにとてもよく似ていると思ったことを、覚えている。 箱庭に散りばめられた53個のきらめき。 首輪に宿るアインスト細胞を通じて、アルフィミィはそれを知覚することが出来た。 視覚ではないところで見、聴覚ではないところで聞いている。 その感じ方は、NTや念動力者といった者達が他者を感じられるのと、似ているのかもしれない。 ただ、それは感覚という曖昧なもの。遠くのものを見て、その距離に当たりを付けるようなあやふやなもの。 不確実性は甚だしく、個人の趣向にも左右される。 見たいものだけを見、聞きたいことだけを聞く。見たくないもの、聞きたくないことは意識の外へ。 それがある程度可能なのだ。 だから別個に、アインスト細胞に依らない首輪そのものの機能の一つとして、ネビーイームには座標データが送られていた。 それを今、鎮座するデビルガンダムを通じてアルフィミィは確認している。 『問題』の反応はある。確かにその場所、その位置に反応はあり続けている。その問題ないはずの現象。 それがアルフィミィの焦りと混乱をより深くしていた。 「何故……感じられませんの」 どんなに意識を凝らしても見えない。聞こえない。これまで、こんなことはなかった。 箱庭というオモチャ箱に閉じ込めた53個のきらめき。その数は減り続けている。 死んで消えて去ったのだ。 それとは違う。死んでない。生きている。でも、知覚出来ない。感じられない。 まるで繋がらない電話だ。番号は知っているのに、間違ってないはずなのに。 出てくれない。 何度も、何度も、何度も掛けなおした。彼が居たはずの場所に目を凝らし、耳を凝らし、神経を集中させて感じようとした。 その度に、呼び出し音が虚しく響いただけだった。 「何で何も感じられませんのっ!!」 何も見えない。何も聞こえない。それが意味するもの。意味すること。 もしかして私は―― 頭をぶんぶんと左右に振って、その先の考えを振り払う。 もう一度。もう一度と自分に言い聞かせて、嫌な考えを頭から追い払う。 落ち着かぬ気持ちを無理にでも落ち着かせ、瞳を閉じる。箱庭に散らばるきらめきに意識を凝らす。 瞳は瞼の裏、何も映さない。漠々たる闇の意識野が拡がり、視覚ではない何かが光を捉える。 それはまるで夜空に浮かぶ星たちのきらめき。それは人の想い。 ときに強く、ときに弱く瞬き、怒れば赤に、悲しめば青にとその色を移ろわせていく、揺らめく炎のように。 それが画一的なアインストには無い色で、一つ一つ違った色で、最初は眺めているだけで楽しかった。 箱庭という宝石箱に、綺麗な色とりどりのビー玉を集めて喜んでいる子供のようなものだったのだろう。 だが、今はそんな余裕が無い。 焦りを抑えつつ、数え間違えのないようにそれを一つ一つ丁寧に確認していく。 確認できた数は19。そして、今現在生存しているはずの者の数は20。 ――ひとつ、足りませんの。 思い通りにならない現実に涙が滲んでくる。何もかも放り投げて泣き出しそうになる。 それを『がまん』の一言で押さえつけ、作業を続けた。 時計の針は、もうすぐ八時半を指す。対象を見失ってから約三十分。 何の進展も得られぬまま幾度となく繰り返した道筋を、もう一度辿る。 ユーゼス=ゴッツォとテンカワ=アキトのきらめきを確認。カミーユ=ビダンのきらめきも確認。 フェステニア=ミューズとオルバ=フロスト、確認。 ネビーイームから首輪の座標データを引き出し、照合。見つからない20個目のきらめき、それの存在を確認。 やはりそこにそれはあるのだ。なのに知覚できない。感じ取れない。 じわりと滲んだ涙をがまんして、口元がへの字に曲がった。まだ泣くには早い。 「 が ま ん ですの」 見えずとも、聞こえずともあるのだ。そこに間違いなくあるのだ。 なら感じ取れるはずだ。その存在を、自らの直属に位置する首輪のアインスト細胞を。 ユーゼス=ゴッツォとテンカワ=アキトの位置、カミーユ=ビダンの位置、フェステニア=ミューズとオルバ=フロストの位置。 それらを目印にすれば、意識野におけるキョウスケ=ナンブのおおよその位置は見当がつけられる。 睨みつけるかのようにして、感覚を研ぎ澄ます。そこに意識を凝らしていく。 広域に広げていた意識野を絞り込む。 中央廃墟、南部市街地の参加者を知覚の外へ。ロジャー=スミス、ソシエ=ハイムもそれに続く。 さらにレオナルド=メディチ=ブンドルと兜甲児も、今知覚外へ。 まだ見えない。さらに絞り込む。 ユーゼス=ゴッツォ、テンカワ=アキト、カミーユ=ビダンを知覚対象から外す。 最後に残ったフェステニア=ミューズ、オルバ=フロストの反応も意識野から追い出した。 そして残されたのは、狭く何もない漆黒の空間だけ。G-6基地だけに絞込み、意識を凝らしているにも関わらず――まだ知覚できない。 五感も不要。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を順に排除。 研ぎ澄ました知覚を腕の形に。それを伸ばし、どろりと粘性を帯びた暗い意識野の水面へと埋めていく。 掻き回し、掻き乱す。時折両の手で掬い上げ、何もないのを確認してもう一度。 何度も何度も繰り返す。 何かがあるはずだ。ここに。この場所に。 それに触れようと必死になって探り続けた指先に不意に何かが当たり、途端に弾かれた。 研ぎ澄ました知覚の腕が掻き消され、五感が戻る。凝らし、絞り込んだ意識野が拡散する。 気づくと、汗だくの体でデビルガンダムに半身を埋めていた。蒼ざめた肌に、途切れ途切れの呼吸。 見つけた。触れた。知覚した。でも―― 「何故ですの……なぜ? 何で? どうして!? 何がッ!!」 次第に激を増していく言葉。空気が足りず、上半身だけで大きく仰け反るようにして、息を継ぐ。 「……わかりませんの」 天を仰いで呟いた声は、ついに涙声へと変わる。 見つけたのは、キョウスケ=ナンブの首輪に宿るアインスト細胞の反応。だが触れた瞬間に拒絶された。 下位のアインストが上位のアインストを拒絶することなど、普通ありはしない。 ましてそれが直轄のものならばなおさらだ。にも関わらず拒絶された。理由ははっきりしている。 「……わかりませんの」 自分よりも上位のアインストがあの場に居る。同位ではなく上位の存在。 首輪のアインスト細胞が反応をよこさずに拒絶したのは、より上位の存在に支配権が移ったが為。 「何故、あなたが……わかりませんの」 主がキョウスケ=ナンブを器に選んだ。それがほぼ確定。 メディウス・ロクスが起こした空間の歪み、箱庭へと滑り込んだ主の一欠片、知覚出来なくなったキョウスケ=ナンブ。 そこへ思い至るだけの材料は十分にあった。 にも関わらず、今の今までその可能性を考えの外に追い出していたのは、否定したかったからだろうか。 かつて主の前に立ちふさがり、主が力の大半と引き換えに撃ち滅ぼした者達の一人と同質の存在。 しかし、それ以外は何の変哲もない何処にでもいる普通の人間。器に選ばれるような理由はないはずなのに。 別にいいではないかと思う。気にする必要も必然性もない。 理由が分からずとも、ともかく主は新たな器を手にしたのだ。それでいいではないか。 ――でも、どうして心が揺れますの? 胸中の呟きに答えはない。 息をゆっくりと吸い、長く細く吐き出す。答えの出ない疑問を棚上げに、思考を切り替える。 主の欠片が箱庭に降り、器に憑依した。 ならば今自分が考えなければならないのは、この先どうするべきか、だ。 最大限の融通を利かせ、主の有利なようにことを進めるべきか。あるいはこのまま静観を続けるべきなのか。 いや、そもそも主はこの宴の目的たる新たな器を手にしたのだ。もうこれ以上、この宴を続ける理由は何処にもない。 箱庭から主を脱出させ、残ったサンプルたちはそのままここに放棄しても一向に構わないのではないだろうか。 でもそれは―― 「……嫌ですの」 会ってみたい者達が、依然としてこの箱庭で生き続けている。 例え主にとってもはや用済みの空間と言えど、自身にとって魅力的な宝石箱である事実は変わらない。 それに、それにだ。そもそもあれは主と、ノイ=レジセイアと呼べる程のモノなのだろうか? 主の欠片であることに間違いはない。 だが、もしもあれがノイ=レジセイアと呼べる程の力を持っていなければ? 主の選択が間違っていたとしたら? ――別の器が必要ですの。 主の本体はまだこちらにある。再度憑依を促す必要が生じたときの為に、今この宴を止めるわけにはいかない。 自分が生み出された理由は、『ノイ=レジセイアと呼ばれるモノ』を生きながらえさせる為なのだから。 そう理由付けながらも、でも、と思う。でも多分本当は認めたくないだけなのだ。 あれがノイ=レジセイアだとは認めたくない。自分と同じく人をベースとしたあれがノイ=レジセイアだと認めたくない。 そして、主の器は自分によって選び出されるべきなのだ。そうでなければ、自分が生み出された意味がなくなってしまう。 だから認めたくない。自己の存在を懸けて、認めるわけにはいかない。 「あれは敵」 自分の存在価値を根こそぎ奪っていくもの。 「あれはまがいもの」 主の力によって生み出された主とはまた異なった別個の存在。 本当にそう思っていれば、動けたのだろう。主の本体に確認を取ったはずだ。でも違うと言い張りながら、その足は出ない。 怖いのだ。 問えば主はあれをノイ=レジセイアと認めてしまうだろう。そうなれば、自分の存在理由が消えてしまう。 生れ落ちた意味も、今生きている意味も失われるのだ。 それが何よりも怖い。 誰でもいい。誰でもいいから教えて欲しい。与えて欲しい。揺らぐことのない存在価値を、存在理由を。 主でなくても、今箱庭の中にいる者でも、誰でもいい。誰でもいいのに―― 「ここには……誰もいませんの」 直径40kmにも及ぶネビーイームの最奥、その中枢。見回せばそこはがらんと広い巨大な空洞でしかない。 「誰も……」 そのときアインスト=アルフィミィは、生まれて初めて孤独を理解した。 【アルフィミィ 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:良好 機体状況:良好 現在位置:ネビーイーム 第一行動方針:バトルロワイアルの進行 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】 【二日目 8 50】 BACK NEXT 仮面の奥で静かに嗤う 投下順 変わりゆくもの 争いをこえて 時系列順 最後まで掴みたいもの BACK NEXT すべて、撃ち貫くのみ アルフィミィ 怒れる瞳
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□ 「う、あ……?」 「あ、気がついた?」 目が覚めて、カミーユが最初に目にしたものは青空――だけでなく、心配そうな顔のキラ・ヤマト。 VF-22Sのキャノピーが開け放たれ、運び出されたようだ。 自分よりも先にこの線の細い少年が覚醒し、あまつさえ彼に運び出されてても自分は気付かなかった。 負けたのか、という思考と、まだ勝負はついていない、という思考がせめぎ合う。 すると、キラが手を差し出してきた。 「カミーユ、まだ動ける?」 「お前に心配されなくても……っ!?」 差し出された手を振り払い、なんとか立ち上がったところで、頬に衝撃を感じた。 と思った瞬間には視界いっぱいに青空が広がり、俺は今倒れているのかと自問する。 視線をキラに向ける。彼は拳を握り締め、「人を殴ったのは初めてだ」と呟いた。 胸に再び戦意が燃える。まだ勝負は終わっていない、そう言いたいのか、と。 ふらつく足を叱咤して、立ち上がる。彼に倣うように、カミーユも拳を握る。 それを見てキラは微笑んだ。 その顔に拳を叩き込む。先のカミーユ同様に転がるキラ。 しかしすぐに立ち上がって口元を拭い、再び殴りかかってくる。 人を殴ったのは初めてという言葉が正しいものであるかのように、構えも何もない。 動き自体は鋭いのだが予備動作の大きなパンチを身を屈めてやり過ごし、みぞおちへと拳を突き込む。 痛みに身を折るも、その眼光は未だ鋭い。カミーユは引けばやられるとばかりに、その顔を左右両方の拳で殴りつける。 が、キラは今度は倒れない。 殴られつつも、反撃の拳は空を切り続けるも、決して後ろには下がらず前進し続ける。 バックステップ、空いた距離を助走に充てて右足を振り回す。 脇腹を抉る手応え。キラは激しく咳き込むもやはり倒れず、蹴り足を掴んできた。 力を込めるが、離さない。そのまま右のパンチを放ってきた。 カミーユの足を掴んでいるため腰が入っていないそのパンチを右腕で軽く払い、逆に腕を掴み返す。 引っ張る――カミーユも後ろに倒れるが、同じように迫ってくるキラの顔を左の拳で打ち抜く。 背中が地面に着いた。一瞬息が詰まるが、無視して足を掴む手を振り払い、体勢を入れ替える。 いわゆるマウントポジションの形になった。 「はぁっ……はぁっ……ここ、までだ」 「何、が? まだ、勝負は……ついて、ないよ」 身体が重い。疲労は極みに達していると言えたが、ここは意地を通す場面だとカミーユは確信している。 この状況で、特に格闘技経験などなさそうなキラが打てる手はない。負けを認めさせ、この茶番を終わらせる―― だがキラは負けを認めない、カミーユより余程辛そうなのに。 気圧されているのは間違いなくキラではなく自分だ。 わからない、何故こいつは―― 「どうして……そこまでする。俺のことなんか、放っておけばいいだろう」 「……できないよ。君は、僕と同じだ、から」 「お前と?」 「憎しみだけで戦っちゃ駄目なんだ……君も、僕も。それがわからなかったから、僕は友達と戦った……。 放送でアスランって名前が呼ばれたの、覚えてる? 子どもの頃からの、親友だったんだ」 その名前には覚えがある。二回目の放送で呼ばれた名だ。シャアの前に呼ばれたから、なんとか聞き逃してはいなかった。 馬乗りにされて苦しそうな様子を見せるキラだったが、それでも言葉を切るつもりはないように続ける。 「アスランは、ザフト……軍に入ってて、僕は彼と敵対することになった。それで何度も戦う内に、お互いの友達を殺してしまって。 僕らは、本気で殺し合ったんだ。憎かったから、許せなかったから。でも僕らは生き残った。生き残ってしまった……。 なら、きっと僕らにやらなきゃいけないことがあったはずなんだ。戦いを止めるために、今度こそアスランと手を取り合おうと思った、でも!」 悔恨を呑み下すように一つ息を吸い、 「アスランは死んでしまった。アスランだけじゃない、ラクスも、カズイも! 守るって決めたのに、守れなかったんだ!」 「お前……」 「……君をここで行かせてしまったら、きっと君は死んでしまう。行かせないよ……今度は、止めてみせる」 そう言って、右手を突き上げる。だが肩が地面についていては、どんな達人だろうと―― 「ッ!?」 視界が閉ざされ、目に激しい痛み。 キラは殴ろうとしたのではなく、手に握りこんだ砂をばら撒いたのだ。 押さえつける力が緩んでしまった。押しのけられ、キラが立ち上がる。 カミーユが立ち上がるその前に、キラの足が迫り、腹部にめり込む。蹴り飛ばされ、地面へと転がる。 吐きそうな痛み。だが、屈する訳にはいかない――今は、まだ。 「ごめん……卑怯、だよね」 「ガッ、は……ああ、卑怯、だ。でも――少し、見直し、た」 こいつも必死なのだ、とキラに共感めいたものを覚えた。 立ち上がる。もう次に倒れたら、そこで終りだろうと他人事のように思う。 それはキラも同じだろう、激しく肩で息をしている。 先に一発入れた方が勝つ。なんとなく、お互いそう思っているんだろうなという気がした。 Jアークから青い機体が発進するのが見えた。今頃仲裁しに来たのか―― と、一瞬目を離した隙にキラが踏み込んできた。 身体を捻り、勢いを乗せて右腕を打ち出そうとしている。もうかわす体力も、打ち落とす気力もない…… だから、カミーユは前に踏み込んだ。 キラの拳が加速し伸び切る前に、額で受ける。 意識が飛びそうになる。だがまだだ、まだこの拳を撃ち込んでいない――! 最後の力を受け止められ、目を見開いたキラの懐へ。 固く、硬く握った拳をその身体の中心へと、叩きつける。 カハ、という呼気とともに拳から伝わるキラの力が抜ける。倒れる前に、受け止めてやった。 ネリ―・ブレンという機体が着陸した。直、赤毛の少女が出てくるだろう。怒っているだろうな、と気が重くなる。 腕の中のキラを見やる。 こいつは理想家などではない。奇麗事をやり遂げるだけの強い意志を、それを成す覚悟も、そして力も持っている。 自分とどこが違うのだろうと嘆息し、抜けるように青い空を見上げる――注意を逸らした。 もぞもぞと、キラが動いた。まだ意識があるのかと、とりあえず介抱しようとして―― 灼熱のような痛みが全身を駆け抜けた。 よろよろと見下ろす。自分の腹に、何か生えている。 キラを突き飛ばす。その手にあるのはバール、のようなもの。 隠し持っていたということだろうか。 キラを、まるで信じられないものを見るような目で睨む。彼は悪戯がばれた子供のように、ほがらかに笑った。 「お、お前……?」 「だから、卑怯かっ……て、聞いたんだ、よ」 「それとこれとは――」 「僕の――勝ちだ!」 疲労と痛みで、もう腕が上がらない。キラが突っ込んできて、バールのようなものを振り上げる―― ブツリ、と意識が断ち切れる音を聞いた。それはキラに頭を強打された音だったのだが。 薄れゆく視界の中で最後にキラの声が聞こえた気がする。「ありがとう、ソシエ」――と。 そして目の前が真っ暗になって、カミーユ・ビダンは眠りについた。 □ 「起きたか。落ち着いたか、カミーユ?」 「……ええ、おかげさまで。まだ頭が痛みますよ」 Jアーク居住区の一室。ベッドの上でカミーユが身を起こす。 キラに殴られ気絶した後、ここに運び込まれたらしい。 アムロが水の入ったボトルを投げ寄こす。喉を冷たい水が滑り落ち、自分が落ち着いてきたことを実感する。 「あいつは……大丈夫なんですか?」 「怪我の面でいえばお前よりよほどひどいが、無事だ。 何でもキラはコーディネイターという――強化人間とはまた違うが――、まあ俺達よりも頑健な肉体を持っているそうだ。 特に心配することはない。それよりも」 アムロがカミーユの目を覗き込む。反射的に逸らしそうになる視線を意地で押さえつけた。 「で、どうだ。まだ一人で行動する気なのか?」 「……勝負に負けたんです、従いますよ。俺も、頭に血が上っていたことは認めます。 一刻も早く基地に行かなきゃいけないって気持ちには変わりありません。でも、あいつの言うことを信じてみるのも悪くない……そう思います、今は」 「そうか……何よりだ。では、動けるようなら来てくれ。改めて彼らにお前を紹介する」 促され、立ち上がる。ややふらつきはしたものの、頭はすっきりとしている。 全力で殴り合ったのが効いたのだろうか。単純なものだと自分に呆れる。 バールのようなもので殴られた頭をこわごわさすってみる。コブにはなっているが、特に出血はない。 キラが手加減したというより、全力で殴ってもこの程度の力しか残っていなかったのだろう。 数分ほど歩き、ブリッジに着いた。中からは賑やかな声が聞こえる――と言っても、声が大きいのは一人のようだが。 扉が開き目に飛び込んできたのは、顔中絆創膏だらけのキラと、更に彼の頭に包帯を巻こうと迫っている赤毛の少女だった。 「あっ、アムロさん。アイビスを止めてください! さっきからいいって言ってるのに包帯を巻こうとしてきて、っていうか意味ないよ絆創膏の上に包帯なんて!」 「何言ってんのよそんな顔で! アムロからも一言……って」 やっぱり気まずいな、とカミーユは思った。先程まで彼女の仲間と盛大に殴り合っていたのだから。 アイビスの後ろから当のキラが顔を出す。何と言おうかどうか迷っていると、 「カミーユ、気がついたんだ! ……大丈夫、頭? その、思いっきり殴っちゃったから……」 先に声をかけられた。しかも、カミーユの身を案じている様子で。 アムロの言っていたこともわかる。バールのようなもので殴られただけの自分に比べ、キラの顔は腫れ上がるほどに殴ったのだ。 大丈夫?というのはむしろこっちのセリフだと思った。 「キラ……その。済まなかった。俺は周りが見えてなかった。自分のやりたいことだけ押し通そうとして、迷惑をかけた」 自然に口から謝罪の言葉が滑り出る。何故かキラに対してはもうほとんどわだかまりはなかった。 「え……あ、いや、いいんだ。カミーユの言ってる事も正しいんだし……それに僕も人のことは言えないよ。 八つ当たりっていうか、ずっとむしゃくしゃしてたのをカミーユに当たってしまって。むしろ僕が悪いって言うか」 逆に謝られる始末だ。不意におかしさが込み上げてきて、カミーユは身を折って笑った。ここに来てから笑ったのは初めてだ。 見れば赤毛の少女――アイビスも何か言いたげにこちらを見ている。 既にアムロから、シャアが彼女を庇って死んだことは聞いた。それを気に病んでいることも。 「あのさ……私」 「あの人は、迷わなかったか?」 だから、彼女が謝ってしまう前に聞いた。 「……うん。シャアは……私を守ってくれたよ。死ぬことは許さない、託された命の重さを背負っていけって。だから、私も精一杯生きるって決めたんだ」 「そうか……。ずるいな、あの人は。そうやって、いつも自分だけ先に行ってしまうんだ……」 クワトロ、いやシャアにはまだやるべきことがあったずなのに。だがあの男のことだ、最期に悔いを残すことなどなかっただろう。 目を閉じればあの人が語りかけてくるような―― 『新しい時代を作るのは老人ではない。ここから先は君次第だ――』 そう、聞こえた気がした。 (わかってますよ……俺には、あなたや多くの人から託された想いがある。生きて、辿り着いてみせます。あなたが望んだ、新しい世界に……) シャア・アズナブルの影に別れを告げる。ここから先はカミーユ・ビダンの道だ。もうシャアを頼ることはできない。 顔を上げ、そこにいる全員を見据える。 「俺は、基地にいるキョウスケ中尉……アインストを倒さなければならない。力を貸してほしい」 「カミーユ、僕達は」 「ああ、わかってる。今すぐってわけじゃない。ナデシコって戦艦と合流して、戦力が集まってからでいい。俺もそれまで同行させてもらいたいが、いいか?」 「カミーユ……! うん、歓迎するよ!」 キラが右手を差し出してくる。さっきは振り払ったその手を、今度は強く握り返す。 そうだ、一人で気負うことはない。アムロ、キラ、アイビス。 この仲間達となら、なんだってできる。 もう基地のときのような失態は犯さない。今度こそ守り抜いてみせると、深く決意する。 「よし、ではもう一度状況を整理しよう。カミーユ、まずはお前の情報からだ」 事態を見守っていたアムロが促す。まるで自分が口を出さずとも何とかなるとわかっていたようで、やっぱり大人なんだなと思った。 □ 「じゃあ、ブンドルさんとそのガロードってやつは味方ってことでいいんですね」 「ああ。ナデシコはどうなるかはわからないが、ガロードについては信用できる。カミーユ、お前も一度彼に会っておくべきだ」 「え? どういう意味ですか?」 「会えばわかるさ」 「ユーゼスに、アキトか。この先ぶつかることになるだろうな……それまでにナデシコと合流できればいいが」 「特にユーゼスです。あいつは何をしてくるかまったく予想できない。ゼストって機体が修復される前に排除しなければ」 「基地から西の方に逃げたってことは、南の市街地に行ったんだろうね。ロジャーって人達、大丈夫かな……?」 「あの人なら大丈夫だと思うけど……ソシエがいるから、心配だな」 「そう、やっぱりテニアは……」 「事情があったんだってことはわかる。だが、彼女はもはや説得でどうにかなる相手じゃないぞ」 「うん……そうだね。たぶんダイとの戦いのときにも、彼女は動いていたんだ。気付かなかった僕のミスだ。そのせいでマサキとムサシは……」 「マサキの死にも……テニアが関わっていたのか」 「ごめん。あのときは撤退するのが精一杯で、とてもマサキのフォローしている余裕はなかったんだ」 「キラのせいじゃない。それにしても、ガウルンか。厄介な相手ですね」 「もし奴と戦うことになったら、俺に任せろ。一度戦った経験が役立つだろうしな」 「でも、そのガンダムってギンガナムの機体と同じタイプなんでしょ? F91が強力な機体なのはわかるけど、アムロ一人じゃ危ないよ」 「いや、俺だけじゃなくブンドルもいる。彼とは早く合流したいところだが、ナデシコでガロードと合流していてくれれば心強いな」 「カミーユ。お前、たしかZガンダムを自分で設計したという話だったな。なら、協力してもらいたいことがある」 「はい、何です?」 「カミーユ、これを見て」 「……、これは。つまり、俺にやれって言いたいことって」 「そうだ。俺とキラとお前とで、『機体の整備』を行っておく。お前はキラとは違ってハード面に強い。期待しているぞ」 「ああ、そうだ。F91のビームライフル、回収したんだけどもう使えそうにないよ、どうする?」 「それなら、バルキリーのガンポッドを使えばいい。俺は一つで十分だ。キョウスケ中尉からもらったライフルもあるしな」 「わかった、じゃあ後でF91用に調整しておくよ」 「そうだ、カミーユ。今何年だったか覚えているか?」 「何年って……UC0087でしょう」 「そうか……いや、そうだったな。俺も歳かな? 物忘れがひどくてな」 「何言ってんです、アムロ大尉はまだ22かそこらのはずでしょう。しっかりして下さいよ」 「アムロさん……ちょっといいですか?」 一通り情報を整理し終えたところで強張った顔のキラが声をかけてきた。カミーユとアイビスは離れたところでシャアの話をしている。 声を潜めているということは彼らに聞かれたくない話だろうか。 「どうした、キラ」 「これを見てください。VF-22Sのデータです」 データが示すものは、カミーユの乗ってきたVF-22S。それと、そのVF-22Sに搭載されているはずの反応弾――核。 だが彼からは一言も核を持っていることなど聞いていない。忌避しているとしても、一言もないのはおかしい。 「キラ……これは?」 アムロが支給されたバルキリー、VF-1Jにも反応弾は搭載されていたが使用することもないまま破壊されてしまったために忘れていた。 たった一発で数万の命を消し去るほどの、常軌を逸した火力。そして何より、シャアの命を奪った光。 「ムサシ……仲間が持って来たんです。多分テニアが友達を殺した時に、彼女の目を盗んで。一個人が持つのはあまりに危険だから、このJアークで保管してくれって」 「そう、か。そのテニアという少女に見つからなかったのは不幸中の幸いだったな」 もしテニアなる少女が反応弾を手にしていれば、このJアークも今はなかったかもしれない。 それを考えればたしかに幸いではあったが―― 「これを使うときは、アムロさん。あなたが決めてください」 「……俺が?」 キラの目は真剣だ。単に重い選択をこちらに投げているという訳でもないだろう。 「核は、一人の人間が持つには大き過ぎる力です。使い方を誤れば、とても危険なものですから。でも、大きな力であることには変わりない……。 特に、主催者――ノイ・レジセイアと戦う時には役立つかもしれません。アムロさんなら、使うべきタイミングがわかるでしょうから」 「……わかった。できることなら使いたくはないが、そうも言ってはいられないしな」 カミーユへ説明しに向かうキラに背を向け、格納庫へと歩き出す。反応弾をVF-22Sに積み込まねばならない。 シャアの死の原因たる核を自分達が扱うことになろうとは思わなかった。 アイビスとカミーユは、おそらく核を使うことを良しとしないだろう。 エゥーゴがジャブローを強襲した際、あの堅牢な基地は核によって崩壊を迎えたらしく、カミーユもその現場にいたと聞いている。 アイビスにしてみても、シャアを看取ったとき間近でその輝きを見ているはずだ。 あの威力を知っている者なら、引き金を引くことの重さは嫌というほどわかる。無理もないことだ。 しかし、もしこれを使わなければ切り抜けられないような事態になったとき、アムロに躊躇うことは許されない。 己が逡巡でキラやアイビス、カミーユの若い命が失われるなどあってはならないのだ。 あの男、シャアが自分の立場であったなら迷いはしないだろう。子どもを守るのが大人の務めというものだ―― そうだ、カミーユの時代とアムロ・シャアの時代が違っていることは彼にはまだ話さない方がいいだろう。 歴史が変わるなどの心配もあるが、カミーユの繊細な心を無駄にかき乱すこともない。 (やれやれ。ブンドル、早いところ合流してくれ。俺一人が大人役では荷が重いよ……) 友の顔を思い浮かべ、苦笑する。この苦味はしばらくのところ、続きそうだった。 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない) 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN100% 無数の微細な傷、装甲を損耗 現在位置:D-3 第一行動方針:協力者を集める 第二行動方針:基地の確保 最終行動方針:精一杯生き抜く 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー) パイロット状態:健康、ジョナサンを心配 疲労(大) 全身に打撲 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100% 現在位置:D-3 第一行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める 第二行動方針:ナデシコ組と和解する 第三行動方針:首輪の解析 第四行動方針:生存者たちを集め、基地へ攻め入る 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出 備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復】 【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91) パイロット状況:健康、若干の疲労 機体状態:EN40% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ ビームサーベル一本破損 頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾60% ビームライフル消失 ガンポッドを所持 現在位置:D-3 第一行動方針:ブンドルと合流 第二行動方針:キラに付き添い協力者を集める 第三行動方針:首輪の解析 第四行動方針:基地の確保 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している ガウルンを危険人物として認識 首輪(エイジ)を一個所持】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・Sボーゲル(マクロス7) パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大) 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾所持 EN40% 左肩の装甲破損 現在位置:D-3 第一行動方針:しばらくはJアークに同行する 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」 第三行動方針:首輪の解析 第四行動方針:遭遇すればテニアを討つ 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】 【二日目 12 00】 BACK NEXT 獲物の旅 投下順 天使再臨 天使再臨 時系列順 Lonely Soldier Boys &girls BACK NEXT 黄金の精神 アムロ 破滅の足音 黄金の精神 キラ 破滅の足音 黄金の精神 アイビス 破滅の足音 獲物の旅 カミーユ 破滅の足音
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悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV. おそらくは規格外の力で強引に空間を抉じ開けたからなのだろう。 その座標は“軸”が捻れ、極めて不安定な状況に陥っていた。 二~三日で終わらせる予定だったデスゲームのため、急場拵えで仕立て上げた箱庭世界である。 さほど遠くない内に、崩壊の時を迎えるだろう事は予測されていた。 だが、これは……。 「ただ単純に空間が歪んだ、と言う訳ではなさそうですの」 バトルロワイアルの会場となっている、箱庭世界の外壁部分。 今は塞がれた“穴”の開いていた場所に立ち、アルフィミィは興味深そうに呟きを洩らしていた。 放送用の台本を読み終えてから間を置かず、彼女は好奇心に任せて行動を起こしていた。 バトルロワイアルが行われている会場内に直接乗り込む事は禁じられている。 レジセイアの命令が降りさえすれば事情は異なってくるのだろうが、今現在の指示は現状維持。 バトルロワイアルの進行以外に、レジセイアからの命令は下されていなかった。 アルフィミィとて、なんでもかんでも好き放題に出来る訳ではない。 ゲームマスターとしての裁量を大きく逸脱する行為までは、流石に認められていなかった。 偶発的な事態によって、バトルロワイアルの会場を飛び越えてしまったテンカワアキト。 彼に対する処遇でさえ、かなりギリギリの落とし所であったのだ。 参加者に対する直接的なコンタクト。新規機体の投入もしくは、破壊された機体の修復。 いずれもバトルロワイアルの公平性を保つ上で、好ましくない行為であった事は疑問を挟む余地も無い。 レジセイアの不興を買う事になっていたら、アルフィミィ自身が処罰を受けていた可能性も無いではなかった。 ……もっとも、あの特殊な状況下では、その可能性が極めて低い事は理解していたが。 「ま、今は関係無い事ですの」 横道に逸れた考えを修正する。過ぎた事より、今は“コレ”だ。 そもそも自分の役割は、バトルロワイアルの進行である。 ゲームの進行に関与すると思われる事象に対しては、その詳細を正確に把握しておく必要があるのだ。 レジセイアは、空間に開いた穴の件に関して、自分に対して何の命令も下してはいない。 それはつまり、この事象に関わる事を“拒んでもいない”と言う事だ。 ならばゲームマスターとして、自分には異常事態を確認する義務がある。 なにも空間の管理自体に口を挟もうと言うのではない。 この異常が今後の進行に対して、どのような影響を与えるのか知っておかなければならないと言うだけの事だ。 あくまでも越権行為ではなく、ゲームマスターとしての職務を遂行しているだけ。 これならば、少々強引な理屈だと思わないでもなかったが、一応の言い訳程度にはなっているだろう。 実際の話、この“穴”まで近付いた自分に対して、レジセイアは何も言ってこようとはしていない。 大手を振って堂々と、隠す事無く行動しているアルフィミィに、だ。 それは暗黙の内に、彼女の行動が許容されている事を意味していた。 「ペロ。これは……ゲッター線!」 強引に抉じ開けられた空間には、ゲッター線の残滓が漂っていた。 どうも“それ”だけではないようだが、この異変にゲッター線の力が関与している事は間違い無いらしい。 そういえば、この空間が繋がり合っていたエリアは基地だったはず。 そして基地にはブラックゲッターが存在して、なおかつ流竜馬が接近していた。 ならば、何が起きても決して有り得ない事ではない。ゲッター線にとって、流竜馬は特別な意味を持つのだから。 だが、その流竜馬も既に死んでいる。バトルロワイアルの会場内からは、もはや彼の生命反応を感じられなくなっていた。 ならば、ひとまず事態は落ち着いたと見るべきだろう。 流竜馬、神隼人、巴武蔵。ゲッターチームが全滅した以上、ゲッター線の活性化は遠退いたはず。 あの異常事態が再び起こる可能性は、極めて低いと言えるだろう。 それならば、バトルロワイアルの進行役として、彼女が今最も気にしなければならないのは……。 「っ……! この……声は…………」 そこまで、彼女が考えを巡らせた時だった。 やおら強烈な意思の塊が、アルフィミィの意識に語り掛けてきたのは。 ……レジセイア。 今まで沈黙を保っていた殺戮遊戯の真なる主催者が、ようやく動き出そうとしていた。 『ギュアァァァァァッ……!!』 奇怪な叫び声を上げながら、異形の生命体が蠢いていた。 インベーダー。ゲッター線を喰らう事の他は謎に包まれた、極めて原始的・攻撃的な宇宙生命体。 彼らは激しく飢えていた。そして、だからこそ微かに洩れ出たエサの臭いを、それこそ犬のように嗅ぎ当てられていた。 流竜馬を取り込んだメディウスによる、空間を穿ち貫いた“あの”一撃。 激しく活性化したゲッター線の発現は、この隠蔽された空間である箱庭の存在を一瞬曝け出す事にもなっていた。 もちろん、隠蔽は既に再び行われている。もはやインベーダーの知覚力では、箱庭の存在を探り当てる事は出来なくなっているはずだった。 たとえ放置していたとしても、バトルロワイアルの進行を妨げる可能性は現状殆ど無いだろう。 「だけど、ゼロではありませんの」 そう、決して皆無と言う訳ではない。 メディウスは進化の階段を登り続け、真ゲッターもまた存続している。 ゲッター線活性化の影響を受けて、マジンガーZがマジンカイザーに進化を遂げる可能性。 サイバスターがマサキ・アンドーを失った事により、新しく魔装機神の操者を選定し直す可能性。 ジェイアークが勇者たる者の力を手に入れる事で、キングジェイダーの変身機能を復活させる可能性。 ロジャー・スミスの駆る騎士GEAR凰牙が、データウェポンと再契約を交わす可能性。 波乱の種は幾つも残されており、そして激化する戦いの中で未来を見通す事など出来はしない。 ほんの僅かであるとは言えど、ゲーム崩壊の危険性を残しておく訳にはいかないのだ。 だからこそ、アルフィミィは命じられた。 ゲームマスターの任を一時凍結する事になっても、不確定要素の排除を行うように……と。 アルフィミィと、そして彼女に与えられた新たな機体は箱庭の外に向かわせられたのだった。 ペルゼイン・リヒカイト。 アルフィミィの半身である、赤鬼の異名を持つ機体……では、ない。 それはヒトのカタチを大きく外れた、インベーダーどもと同じ異形の機体。 だが、インベーダーとは違って、グロテスクで醜悪な印象は感じられなかった。 強く―― 烈しく―― 禍々しく―― 悪魔的な重圧感を撒き散らした、それは狂気と破滅の落とし子―― その名を黒歴史に刻まれる、悪魔の異名を冠するガンダム―― 「さあ……あなたの力、見せてもらいますの……デビルガンダム…………」 デビルガンダムの中枢部分、そのコアユニットに下半身を埋めながら、アルフィミィは冷淡に微笑んだ。 『WOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――――――!!!』 力の限りに、悪魔は吼える。 女性。デビルガンダムの力を最大限に引き出し得る生体部品を得る事によって、DG細胞の働きは最大限に発揮されていた。 その鬼気迫る重圧感に、インベーダーの群れは気圧される。 なまじ動物的な知能しか持ち得ていないからだろう。デビルガンダムの脅威と悪意を、インベーダーどもは本能的な部分で感じ取っていた。 アルフィミィにとって、その事実は奇妙な感慨を湧き上がらせるものがあった。 「女性……あなたの求める、最高のコアユニット……。創られた生命の私でも、その資格が存在するとでも……?」 その解答を確める為にも、アルフィミィはデビルガンダムの力を振るう。 ガンダムヘッドが唸りを上げて、インベーダーの群れに――齧り付く! 『グギャァァァァァァァッ!!』 あらゆる有機物・無機物と融合を果たす筈のインベーダー。 だが、それはDG細胞の特性でもある。 「まるで、共食いですの」 インベーダーと、ガンダムヘッド。 それらが喰らい合う様を眺めながら、アルフィミィは冷たく嗤う。 両者の侵食は、互角に進められていた。どちらも互いに侵食を繰り返し、その主導権を奪い合っている。 このままでは、いつまで経っても決着は付かない。 ……だからこそ、決着は既に付いている。 「撃ちますの……」 デビルガンダムの肩に装備された拡散粒子砲が、エネルギーを収束させる。 ガンダムヘッドなど、使い潰しの消耗品に過ぎなかった。 デスアーミーのように生体部品を必要とすらしない、いくらでも再生産の可能な道具。 あの醜悪な化け物諸共に消し飛ばした所で、デビルガンダムには全く何の痛痒も無かった。 だからこそ、躊躇う事無く巻き添えにする。 『……………………!』 気付いた時には、もう遅い。ガンダムヘッドの目的は、最初から足止めをする事でしかなかった。 叫び声を上げる暇さえ与えられずに、インベーダーの群れは消滅する。 ガンダムヘッド。デビルガンダムにとっては爪先ほどの一部でしかない、その端末部分を道連れとして……。 「……さて。お掃除、完了ですの」 戦闘とも呼べない一方的な虐殺の後、アルフィミィは満足そうな笑みを見せた。 箱庭世界の外部に洩れ出たゲッター線が、ごく僅かな量であったからだろう。インベーダーは量質共に、さほど大した脅威ではなかった。 アルフィミィにとっては、良い肩慣らしと言えたであろう。今回の戦闘によって、機体の特性は概ね理解出来た。 ペルゼインとは大きく使い方が異なっているが、自分との相性は決して悪くない。それが、アルフィミィの結論であった。 紛い物の女性でしかない存在を、それでもデビルガンダムは望み得る最良の生体部品として認識している。 いや、むしろ紛い物の女性であるからこそ、デビルガンダムはアルフィミィを受け入れたのかもしれない。 人類抹殺の意思を掲げたデビルガンダムにとって、あくまでも人類は排除の対象でしかないはずである。 そう考えてみると、人類以外の存在を受け入れる事は、むしろ望ましき事ですらあったのではないだろうか……。 「まあ、細かい理屈は知った事じゃありませんの」 ふと頭の中に浮かび上がった考えの数々を、アルフィミィは下らないとばかりに振り払う。 重要な事は、この機体が“使える”事だ。 バトルロワイアル参加者の中には造反を目論んでいる者も少なくはないようだが、これならば易々と反逆を許す事にはならないだろう。 もし首輪の解除に成功して、さらには空間の歪すら飛び越える事が出来たとしても―― このデビルガンダムが、最後の障壁となって立ち塞がるのだから。 それだけでは、ない。 バトルロワイアルの中には、マスターガンダムと言うDG細胞に汚染された機体が存在する。 さらにはテンカワアキトに与えた機体、アルトアイゼン。あの機体を修復する際に用いたのもまた、DG細胞の力であった。 付け加えるならば、やはりテンカワアキトに与えた錠剤の正体。あれもまた、希釈して感染力を弱めたDG細胞に他ならない。 二~三錠飲んだ程度では彼に説明した通りの症状しか起きないであろう。 だが、あれを全て飲み終えるような事になればどうなるのか……。 「ふふ……もう、こんな時間ですの。そろそろ、帰った方が良さそうですの……」 ふと気が付けば、放送を終えてから一時間近くが経っていた。 そろそろ箱庭世界に戻って現状の把握に務めなければ、ゲームマスターとしての職務に滞りが生じる可能性もあるだろう。 だが、まあ……。 「いくら足掻こうと……あの箱庭から抜け出す事は、出来ませんの……」 その幼い面持ちとは不釣合いに艶然とした微笑を浮かべながら、蒼の少女は独り呟きを洩らしていた。 【アルフィミィ 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:良好 機体状況:良好 現在位置:??? 第一行動方針:箱庭世界に帰還する 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】 【二日目 6 50】 BACK NEXT 戦いの矢 投下順 朝ごはんは一日の活力です!! 戦いの矢 時系列順 二つの依頼 BACK NEXT 第二回放送 アルフィミィ 古よりの監査者
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フォルテギガス 機体名 フォルテギガス 全長 51m 主武装 ムーンサークル チャクラム状に変化させたフィガを敵に投擲する。 ストームブレード ビームサーベル状に変化させたフィガを両手に持って敵を幾度も斬り付けた後、相手を空高く斬り上げる。そしてフィガを柄の部分で連結、高速回転を行わせて敵を斬り付ける。ドラグナー1のレーザーソードを想像して貰えれば分かり易いかと思われる。 ビームハンマー フィガをガンダムハンマー状に変化させて、敵に叩き付ける。 ギガブラスター 腹部から発射する超大出力のビーム砲。発射時に発生する熱を逃がす為、ギガブラスター使用時にはフェイスオープンが行われる。 ライアットバスター ビームサーベル状に変化させたフィガを一つに結合。巨大な剣に変化させて、相手を一刀両断にする。 特殊装備 特殊自律機動型兵器『フィガ』 様々な形状に変化する特殊な武器。左右の手に一つずつ装備する事が可能。 シュンパティア 精神を共鳴させる特殊なシステム。ジョシュアとグラキエースはこのシステムによって、お互いの精神を一部共有している。お互いの考えている事や感情の波が伝わったり、人格に影響を与えたりといった効果が見られた。なお精神の共鳴は、シュンパティア搭載機に乗った人間同士、極めて相性の良い者同士に起こる模様。 分身 この巨体が分身する画を考えるとなかなかシュール。 ビームコート ビーム兵器のダメージを軽減する。 移動可能な地形 空:○ 陸:○ 水:△ 地:× 備考 名前の意味はラテン語で“強き巨人”。ストレーガとガナドゥールの合体形態。レース・アルカーナ二基を直結した事により理論上は無限の出力を持つ事になるが、機体が耐えられないので真の力は発揮出来ない。ただしグラキエースルートだとレース・アルカーナの片方はファービュラリスに移植される為、無限出力の設定は無し。また、ガナドゥールとストレーガへの分離機能もオミットされる。